外部形態からノキシノブ類の分類を試みる 1
2023年10月21日 岐阜県神岡鉱山周辺の谷の岩壁・石組みでミカワノキシノブと思われるシダを20株ほど観察しました。ノキシノブの仲間は外観が似ており、特にノキシノブ、フジノキシノブ、ミカワノキシノブはよく似ています。これをきっかけに、ルーペなどを使ってノキシノブ類の外部形態の観察での判別を試みることにしました。なお、ノキシノブの仲間は生育地によっては雑種も多いので胞子のようすを確認して、有性生殖種と推定できる個体を対象に調べました。
タジマノキシノブミカワノキシノブか Lepisorus mikawanus
タジマノキシノブミカワノキシノブと思われるが、あるいは根茎から間隔を空けて葉をつけるフジノキシノブ・葉柄が黒くならないクロノキシノブの可能性もある。
このシダの特徴:①根茎には葉を間隔を空けてつける。②根茎の鱗片はノキシノブ同様に長いがに比べ長く幅が広い(根茎の鱗片辺縁の鋸歯はノキシノブにくらべ長い)。③葉柄は明瞭で淡い緑色。④葉の幅は広く紡錘形で葉身中央で最大幅となり、鮮緑色~濃緑色、光沢はある。⑤胞子のう群は葉身上半分程度上部につく。
①上部を樹冠に覆われた石灰岩質片麻岩の岩壁に生育するタジマノキシノブミカワノキシノブ
②タジマノキシノブミカワノキシノブ、葉は厚い革質裏側は白っぽい
①タジマノキシノブミカワノキシノブ。葉身裏側および胞子のう群
②タジマノキシノブミカワノキシノブ、胞子のう群
①②タジマノキシノブミカワノキシノブ、根茎の鱗片(スケールの目盛りは1mm)
①タジマノキシノブミカワノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は63個程度確認
②タジマノキシノブミカワノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は64個程度確認
ノキシノブ Lepisorus thunbergianus
どこにでもあるが、クロノキシノブやフジノキシノブとの雑種もよく見られる。
特徴:①根茎には葉をやや込み合ってつける~込み合ってつける。②根茎の鱗片は細長い(根茎鱗片辺縁の鋸歯は短い)。③葉柄は明瞭ではない。④葉は線形~紡錘形、鮮緑色~濃緑色、光沢はある。⑤胞子のう群は葉身上半分~葉身上部につく。
標本1 ノキシノブ 相模湖
①石組みの間に生育するノキシノブ
⑧ノキシノブか、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は63個程度確認
⑨ノキシノブか、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は60個程度確認
標本2 ノキシノブ 相模湖中伊豆町
①橋の石組みに生育するノキシノブ
②ノキシノブ、葉の裏側および胞子のう群
⑩ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は64個程度確認
⑪ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は63個程度確認
標本3 ノキシノブ 天理市 苣原町
①神社の社叢林の樹幹に生育するノキシノブ
②込み合って葉をつけるノキシノブ
①ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は63個程度確認
②ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は60個程度確認
標本4 ノキシノブ 伊豆半島 中伊豆町
①②サクラの樹幹に生育するノキシノブ
①ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は54個程度確認
②ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は63個程度確認
標本5 ノキシノブ 相模湖 奥畑
林内のコンクリートの擁壁面に生育。採取時はひどく乾燥していたが、株ごと水に浸しジップロックに入れておくと元気になった。
①林内のコンクリートの擁壁面に生育するノキシノブ
②水分を吸収した同じ株
①ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は63個程度確認
①ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は64個程度確認
標本6 ノキシノブ 西伊豆町
①道沿いに植栽されているサクラの樹幹に生育するノキシノブ
②ノキシノブ、葉身
⑥ノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は62個程度確認
標本7 ノキシノブ 荻ノ入
①渓流に架かる橋の側面に生育するノキシノブ
①ノキシノブ、胞子や根茎の鱗片を観察した株
①ノキシノブ、根茎からの葉の出方
①ノキシノブ、胞子や根茎の鱗片を観察した株
フジノキシノブ Lepisorus kuratae
広く生育するが、ノキシノブとよく似ており区別が難しい。
特徴:①根茎には葉を込み合ってつける。②根茎の鱗片はノキシノブに比べ短く幅が広い(根茎鱗片辺縁の鋸歯はノキシノブにくらべ長い)。③葉柄は明瞭ではない。④葉は紡錘形でノキシノブよりも幅が広く葉身中央よりも上部で最大幅となり、淡黄緑色~鮮緑色。光沢は弱い。⑤胞子のう群は葉身上半分につく
標本1 フジノキシノブ 相模湖 底沢
①谷沿いのコンクリートの擁壁に生育するフジノキシノブ
②谷沿いのコンクリートの擁壁に生育するフジノキシノブ(以前同じ地点で撮影)
①フジノキシノブ、葉のつき方
②フジノキシノブ、葉のつき方(以前同じ地点で採取した個体)
①フジノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は64個程度確認 ※胞子は未成熟
②フジノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は60個程度確認 ※胞子は未成熟
標本2 フジノキシノブ 伊豆半島 西伊豆町中伊豆町
①人家の石垣に生育するフジノキシノブ
①フジノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は61個程度確認
②フジノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は57個程度確認
標本3 フジノキシノブ 伊豆半島 西伊豆町
①渓流沿いの石垣に生育するフジノキシノブ
②フジノキシノブ、少し乾燥した葉の状態(①と同じ株)
①フジノキシノブ、十分に水分を吸収した状態(①と同じ株)
②フジノキシノブ、裏側(①と同じ株)
①フジノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は62個程度確認
②フジノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす。胞子数は64個程度確認
標本4 フジノキシノブ 相模湖 底沢
①②明るい石垣に生育するフジノキシノブ
①フジノキシノブ、葉
②フジノキシノブ、葉裏側(胞子のう群)
標本5 フジノキシノブ 富士宮 芝川
①林縁を流れる用水路の明るい擁壁面に生育するフジノキシノブ
①フジノキシノブ、葉
②フジノキシノブ、葉の裏側(胞子のう群)
①②フジノキシノブ、1つの胞子のうを壊したようす
標本6 フジノキシノブ 荻ノ入
川沿いのサクラの幹に着生する。葉の幅が広く、艶が乏しい。根茎の鱗片は中央が栗褐色・辺縁に鋸歯がある基部が膨らんだ披針形である。ノキシノブと比較すると、フジノキシノブは①葉の長さに比べ幅が広く艶が乏しい。②根茎鱗片基部の膨らみは大きくその部分の鋸歯が発達する。
生育環境にもよるが普段は多少萎れた姿で、葉の薄さ・柔らかさがわかる。葉の色は白っぽい緑色で光沢はないが、雨の後などは、植物体が水分を吸収するため葉は厚みを増しノキシノブと同様な厚みをもつ姿に変わる。色も緑色が増し、艶も見られる場合もある。
①川沿いのサクラの幹に着生するフジノキシノブ
①川沿いのサクラの幹に着生するフジノキシノブ
②フジノキシノブ、根茎からの葉のつけ方
①②フジノキシノブ、根茎の鱗片(スケールの1目盛りは1mm)
胞子のう群が葉縁寄りにつく不明種
標本1 仁科川 上流
渓流沿いの岩上に生育。1株確認。根茎から間隔を空けて葉をつける。葉柄は淡緑色。葉の幅は広く0.8~1.7㎝。胞子のう群は辺縁寄りにつく。根茎の鱗片は短く葉身裏側下部につく鱗片と大きさは変わらず、鱗片基部長さの割に幅が広い。観察した胞子のようすからは有性生殖種と推定される。今まであまり注目してこなかったが盾状鱗片の大きさが気になる。
渓流のそばの岩上に生育する間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間
①渓流のそばの岩上に生育する間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間、葉身
②渓流のそばの岩上に生育する間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間、葉身裏側
①②渓流のそばの岩上に生育する間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間、葉身裏側
①②渓流のそばの岩上に生育する間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間、根茎の鱗片(スケールの1目盛りは1mm)
渓流のそばの岩上に生育する間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間、葉身下部裏側の鱗片(スケールの1目盛りは1mm)
①②渓流のそばの岩上に生育する間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間、盾状鱗片(スケールの1目盛りは1mm)
①②間隔を空けて葉をつけ・胞子のう群辺縁寄りノキシノブの仲間、1つの胞子のうを壊した様子
雑種
ノキシノブの群生地では雑種がときどき観察される。ノキシノブ×フジノキシノブ、ノキシノブ×クロノキシノブ、フジノキシノブ×クロノキシノブなどが考えられる。ノキシノブ類の雑種は一般に植物体が大きくなる傾向が見られる。葉の長さや幅が大きく立派な個体は雑種であることが多いようである。
標本1 フジノキシノブが関わる雑種 相模湖 底沢
外観は大形のフジノキシノブに見えた。人家の北面の石垣にクロノキシノブが群生する中で観察された。フジノキシノブが関わる雑種と思われるが正確なことはわからない。
①人家の北面の石垣に生育するフジノキシノブが関わる雑種と推定(左)とクロノキシノブ(右)
②フジノキシノブが関わる雑種、葉身下部
③④フジノキシノブが関わる雑種、胞子の大きさに大小があり、形が歪なものが多数混ざる
標本2 フジノキシノブが関わる雑種 相模湖 底沢
フジノキシノブではないかと思い胞子を採取し観察、胞子のようすは乱れていて雑種と推定される。川沿いの人家の石垣に生育。葉が大きな個体であった。一般にノキシノブ類の有性生殖種の胞子のう群はきれいな黄色をしていることが多いが、この株の胞子のう群は黒っぽかった。
①川沿いの人家の石垣に生育するフジノキシノブが関わる雑種と推定
②フジノキシノブが関わる雑種と推定、胞子のう群は葉身の上方につく
③④フジノキシノブが関わる雑種、胞子の大きさに大小があり、形が歪なものが多数混ざる
今後、標本を観察したら追加掲載いたします