林床に大きな葉を広げるシダの仲間。2025年7月1日 姫川源流域

新潟糸魚川を河口とする姫川の源流付近(千曲川支流農具川源流青木湖付近)の森を歩きました。森の中には清流と不思議な凹地がいくつかあり、ドリーネなのか噴火口の跡なのかよくわかりません。大きなものは湿地が形成されていました。林内にはオシダやイノデ類、その他のシダが繁茂し半日では観察しきれませんでした。

トウゲシバの仲間 [#h86341fe]

ヒカゲノカズラ、ヒロハトウゲシバ、ホソバトウゲシバなどが見られた。

''ホソバトウゲシバ Huperzia serrata var. serrata
ヒカゲノカズラ科 コスギラン属

林床に群生するホソバトウゲシバ。2025年7月1日 姫川源流域
林床に群生するホソバトウゲシバ

ホソバトウゲシバ、胞子嚢。2025年7月1日 姫川源流域
ホソバトウゲシバ、胞子嚢




チャセンシダの仲間 [#v2c4a385]

トラノオシダ、コタニワタリなどが観察された。


コタニワタリ Asplenium scolopendrium
チャセンシダ科 チャセンシダ属

この辺りは地表に露出している岩があまり見られず、コタニワタリも地表では見られず林内を通る林道の石垣に生育しているところを観察。
林内の石垣に生育するコタニワタリやヤブソテツ(ツヤナシヤマヤブソテツ)。2025年7月1日 姫川源流域
林内の石垣に生育するコタニワタリ



ヒメシダの仲間

ミヤマワラビ、ヒメシダ、ミゾシダ、ハリガネワラビ、メニッコウシダ、ヤワラシダ、ヒメヤワラシダなどが観察された。

ヒメヤワラシダ Metathelypteris  
ヒメシダ科 シマヤワラシダ属

林内に群生する。根茎はヤワラシダに比べ間延びして葉をつける。
林床に群生するヒメヤワラシダ。2025年7月1日 姫川源流域
林床に群生するヒメヤワラシダ

胞子葉を立ち上げるヒメヤワラシダ。2025年7月1日 姫川源流域 ヒメヤワラシダ、包膜。2025年7月1日 姫川源流域
①胞子葉を立ち上げるヒメヤワラシダ
②ヒメヤワラシダ、包膜




メニッコウシダ Coryphopteris sylva-nipponica  
ヒメシダ科 オオハシゴシダ属

林床に生育。1m~2mの範囲で葉を非常に込み合って群生させる。その群生が数か所に点在していた。ハリガネワラビに似るが植物体全体に有毛、葉身はややスリムで最下羽片は多少短縮する程度。新芽が淡緑色。
林床に密に群生するメニッコウシダ。2025年7月1日 姫川源流域
林床に密に群生するメニッコウシダ

メニッコウシダ、葉身。2025年7月1日 姫川源流域 メニッコウシダ、新芽。2025年7月1日 姫川源流域
①メニッコウシダ、葉身
②メニッコウシダ、新芽




メシダの仲間 [#g1a7abca]

ヤマイヌワラビ、カラクサイヌワラビ、サトメシダ、ホソバイヌワラビ、オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)などが見られました。

カラクサイヌワラビ Athyrium clivicola
メシダ科 メシダ属

カラクサイヌワラビは個体数が多く、いろいろな個体が見られた。包膜を観察すると鈎形の包膜が混ざる株や小羽片前側第1裂片が羽軸を覆わない株もいくつか見られ、カラクサイヌワラビが関わる雑種ではないかと疑われた。しかし胞子を観察するとどちらも正常であった。カラクサイヌワラビは短い線形の包膜だけでなく多少鈎形の包膜が混ざることがあることがあったり、小羽片前側第1裂片が羽軸を覆わない個体があったりする。

標本1 包膜はすべて線形~三日月形のカラクサイヌワラビ(鈎形が混ざらない)
包膜はすべて線形~三日月形のカラクサイヌワラビ。2025年7月1日 姫川源流域
包膜はすべて線形~三日月形のカラクサイヌワラビ

カラクサイヌワラビ、包膜はすべて線形~三日月形。2025年7月1日 姫川源流域 包膜はすべて線形~三日月形。2025年7月1日 姫川源流域
①②包膜はすべて線形~三日月形のカラクサイヌワラビ、包膜

カラクサイヌワラビ、胞子数は58個程度確認。胞子の大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域 カラクサイヌワラビ、胞子数は58個程度確認。胞子の大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域
①②包膜はすべて線形~三日月形のカラクサイヌワラビ、1つの胞子嚢を壊したようす





標本2 鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ
鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ。2025年7月1日 姫川源流域
鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ

鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ、葉柄基部の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域 鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ、葉柄下部の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域
①鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ、葉柄基部の鱗片
②鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ、葉柄下部の鱗片

短い線形の包膜に鈎形の包膜が混ざる。2025年7月1日 姫川源流域 短い線形の包膜に鈎形の包膜が混ざる。2025年7月1日 姫川源流域
短い線形の包膜に鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ

胞子数は55個程度確認。胞子は大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域 胞子数は58個程度確認。胞子は大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域
短い線形の包膜に鈎形の包膜が混ざるカラクサイヌワラビ、1つの胞子嚢を壊したようす





標本3 小羽片前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ
フィールドではカラクサイヌワラビとほかのメシダ属のシダとの雑種ではないかと思われたが、この株もカラクサイヌワラビであった。
前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ。2025年7月1日 姫川源流域
前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ

前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ、羽片。2025年7月1日 姫川源流域 前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ、鈎形の包膜が混ざる。2025年7月1日 姫川源流域
①前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ、羽片
②前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ、包膜

前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ、胞子を観察した羽片。2025年7月1日 姫川源流域 
前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ、胞子を観察した羽片

胞子数は61個程度確認。胞子の大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域 胞子数は61個程度確認。胞子の大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域
①②前側第1裂片が羽軸にかからないカラクサイヌワラビ、1つの胞子嚢を壊したようす




サトメシダ Athyrium deltoidofrons  
メシダ科 メシダ属

標本1
林縁に生育するサトメシダ。2025年7月1日 姫川源流域
林縁に生育するサトメシダ

サトメシダ、葉身。2025年7月1日 姫川源流域
サトメシダ、葉身

サトメシダ、包膜。2025年7月1日 姫川源流域 サトメシダ、包膜。2025年7月1日 姫川源流域
サトメシダ、包膜



標本2
林縁に生育するサトメシダ。2025年7月1日 姫川源流域
林縁に生育するサトメシダ

サトメシダ、新芽。2025年7月1日 姫川源流域
サトメシダ、新芽

サトメシダ、包膜。2025年7月1日 姫川源流域 サトメシダ、包膜。2025年7月1日 姫川源流域
サトメシダ、包膜




オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ) Athyrium deltoidofrons × A. vidalii  
メシダ科 メシダ属

サトメシダやヤマイヌワラビが生育する森で見られました。ヤマイヌワラビに似て葉柄や中軸はえんじ色を帯びますが小羽片はヤマイヌワラビよりもずっと深く切れ込みます。標本1および標本2とも胞子のようすを確認しています。正常な胞子はほとんど確認できません。

標本1
オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)。2025年7月1日 姫川源流域
オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)

オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、羽片。2025年7月1日 姫川源流域 オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、包膜。2025年7月1日 姫川源流域
①オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、羽片
②オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、包膜

オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、胞子らしきものは確認されなかった。2025年7月1日 姫川源流域 オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、胞子らしきものは確認されなかった。2025年7月1日 姫川源流域
①②オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、1つの胞子を壊したようす




標本2 (オオサトメシダとサトメシダがほぼ一緒に生育していた)
オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)。2025年7月1日 姫川源流域
オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)

オオサトメシダとサトメシダ(右)。2025年7月1日 姫川源流域
オオサトメシダ(左)とサトメシダ(右)

オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、羽片。2025年7月1日 姫川源流域 オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、胞子のう群。2025年7月1日 姫川源流域
オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、羽片
オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、胞子を観察した羽片(裏側)

オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、胞子らしきものは確認されなかった。2025年7月1日 姫川源流域 オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、胞子らしきものは確認されなかった。2025年7月1日 姫川源流域
①②オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)、1つの胞子を壊したようす



カナワラビの仲間 [#j38a8bad]

リョウメンシダ、ホソバナライシダ、ナンゴクナライシダ、シノブカグマなどが見られた。

ホソバナライシダ Arachniodes borealis  
オシダ科 カナワラビ属

林床ではナンゴクナライシダよりも多く、普通に見られた。
ホソバナライシダ。2025年7月1日 姫川源流域

ホソバナライシダ、葉柄には明褐色の鱗片が密につく。2025年7月1日 姫川源流域 ホソバナライシダ、葉柄には明褐色の鱗片が密につく(拡大)。2025年7月1日 姫川源流域
①ホソバナライシダ、葉柄

ホソバナライシダ、羽軸・小羽軸上にはほとんど毛が無い(わずかに毛がある)。2025年7月1日 姫川源流域
ホソバナライシダ、羽軸・小羽軸上はほぼ無毛




ナンゴクナライシダ Arachniodes fargesii  
オシダ科 カナワラビ属

ホソバナライシダと混生。羽軸や小羽軸上には毛が密に生え、葉柄上部には鱗片は少ないなどナンゴクナライシダの特徴が現れていたが、葉柄下部には鱗片がやや密に生え、個体数も少なかったので現地では雑種のタカヤマナライシダ(ホソバナライシダ×ナンゴクナライシダ)を疑った。羽片を採取し胞子を調べると胞子は正常であった。胞子の観察では胞子を包む外皮は壊れやすかった。
ナンゴクナライシダ。2025年7月1日 姫川源流域
ナンゴクナライシダ

ナンゴクナライシダ、葉柄の鱗片は少ない。2025年7月1日 姫川源流域 ナンゴクナライシダ、葉柄下部の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域
①ナンゴクナライシダ、葉柄
②ナンゴクナライシダ、葉柄下部の鱗片

ナンゴクナライシダ、羽片。2025年7月1日 姫川源流域 ナンゴクナライシダ、羽軸・小羽軸上は有毛。2025年7月1日 姫川源流域
①ナンゴクナライシダ、羽片
②ナンゴクナライシダ、羽軸・小羽軸上は有毛

ナンゴクナライシダ、胞子のう群。2025年7月1日 姫川源流域 
ナンゴクナライシダ、胞子のう群

胞子数は57個確認。胞子の大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域 胞子数は64個確認。胞子の大きさ・形は整い有性生殖種と推定される。2025年7月1日 姫川源流域 
ナンゴクナライシダ、1つの胞子嚢を壊したようす。
※ナンゴクナライシダ胞子を包む外皮は壊れやすく胞子数を確認しにくい

ナンゴクナライシダ、胞子上面。2025年7月1日 姫川源流域 ナンゴクナライシダ、胞子側面。2025年7月1日 姫川源流域 
①ナンゴクナライシダ、胞子上面
②ナンゴクナライシダ、胞子側面



オシダの仲間 [#w06211fb]

ミヤマベニシダ、タニヘゴ、キヨズミオオクジャクなどが観察された。

タニヘゴ Dryopteris tokyoensis  
オシダ科 オシダ属

湿原の中、高茎草本と一緒に生育。点在して生育するが個体数は多い。
湿原内、高茎草本と一緒に生育と共に生育するタニヘゴ。2025年7月1日 姫川源流域
湿原内、高茎草本と一緒に生育と共に生育するタニヘゴ

タニヘゴ、葉柄基部。2025年7月1日 姫川源流域 タニヘゴ、葉身下部。2025年7月1日 姫川源流域
①タニヘゴ、葉柄基部
②タニヘゴ、葉身下部

タニヘゴ、羽片。2025年7月1日 姫川源流域 タニヘゴ、胞子のう群。2025年7月1日 姫川源流域
①タニヘゴ、羽片
②タニヘゴ、胞子のう群




キヨズミオオクジャク Dryopteris namegatae  
オシダ科 オシダ属

源流の山からは北には姫川水系、南には青木湖など千曲川水系となる。峠周辺のウエットな林縁で観察。
ウエットな林縁に生育するキヨズミオオクジャク。2025年7月1日 姫川源流域
ウエットな林縁に生育するキヨズミオオクジャク

キヨズミオオクジャク、葉柄基部の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域 キヨズミオオクジャク、葉柄上部の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域
①キヨズミオオクジャク、葉柄基部の鱗片
②キヨズミオオクジャク、葉柄上部の鱗片

キヨズミオオクジャク、羽片。2025年7月1日 姫川源流域 キヨズミオオクジャク、羽片(葉身下部)。2025年7月1日 姫川源流域
①キヨズミオオクジャク、羽片
②キヨズミオオクジャク、羽片(葉身下部)

キヨズミオオクジャク、胞子のう群は中間につく。2025年7月1日 姫川源流域 キヨズミオオクジャク、胞子のう群(葉身下部)。2025年7月1日 姫川源流域
①キヨズミオオクジャク、胞子のう群
②キヨズミオオクジャク、胞子のう群(葉身下部)




イノデの仲間

イノデの仲間は非常にたくさん生育していた。雑種もたくさん見られるのかもしれませんが限られた時間で探せたのは最も多く見られるサカゲイノデ。それ以外にツヤナシイノデ、イワシロイノデ。

ツヤナシイノデ Polystichum ovatopaleaceum
オシダ科 イノデ属

ツヤナシイノデ。2025年7月1日 姫川源流域
ツヤナシイノデ

ツヤナシイノデ、葉柄の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域 ツヤナシイノデ、中軸の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域
ツヤナシイノデ、葉柄の鱗片
ツヤナシイノデ、中軸の鱗片

ツヤナシイノデ、胞子のう群。2025年7月1日 姫川源流域
ツヤナシイノデ、胞子のう群




イワシロイノデ Polystichum ovatopaleaceum var. coraiense
オシダ科 イノデ属

イワシロイノデ。2025年7月1日 姫川源流域
イワシロイノデ

イワシロイノデ、葉柄の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域 イワシロイノデ、中軸の鱗片。2025年7月1日 姫川源流域
①イワシロイノデ、葉柄の鱗片
②イワシロイノデ、中軸の鱗片

イワシロイノデ、羽片。2025年7月1日 姫川源流域 イワシロイノデ、胞子のう群。2025年7月1日 姫川源流域 
①イワシロイノデ、羽片
②イワシロイノデ、胞子のう群





花そのほか

林床に生育するエゾユズリハ。大きさは1m程度。2025年7月1日 姫川源流域 エゾユズリハ、実。大きさは1m程度。2025年7月1日 姫川源流域
①林床に生育するエゾユズリハ
②エゾユズリハ、実

林床に咲くタマガワホトトギス。2025年7月1日 姫川源流域 湿原の林縁に咲くトリアシショウマ。2025年7月1日 姫川源流域
①林床に咲くタマガワホトトギス
①湿原の林縁に咲くトリアシショウマ

山中の街道沿いの森にはシダ類が繁茂する。2025年7月1日 姫川源流域 2025年7月1日 姫川源流域
①②千國街道沿いに建つ石仏