小田原西部、いこいの森周辺でシダを観察しました。梅の香りとともに暖かい春の陽気の中を歩きました。今回もみなさんでいくつかのシダを見つけて観察することができました。なお、いこいの森周辺の森は広いので2回に分けて歩く予定です。
クラマゴケの仲間
クラマゴケ、タチクラマゴケなどが見られた。
タチクラマゴケ Selaginella nipponica
イワヒバ科 イワヒバ属
林縁や下草刈りされた日当たりのよい土手などに群生する。どちらにしてもあまりドライではない地表に生育する。この季節、日当たりのよいところに生育する株は紅葉する。
(1)(2)下草刈りされた日当たりのよい土手に生育する紅葉したタチクラマゴケ
キジノオシダ属の仲間
キジノオシダ、オオキジノオなどが見られた。
フモトシダの仲間
フモトシダ、ケブカフモトシダ、クジャクフモトシダキタイズカグマ(フモトシダ×フモトカグマ)などが見られた。
ケブカクジャクフモトシダ:仮称(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)
コバノイシカグマ科 フモトシダ属
フモトシダとフモトカグマの雑種と推定される。穏やかな谷に広がるスギ・ヒノキ林内、沢の近くに生育。隣にはケブカフモトシダが生育(付近にはフモトシダも生育している)。ケブカクジャクフモトシダキタイズカグマは10株程度点在して1つの範囲にまとまって生育している。外観は葉身下部がフモトカグマ的で、葉身上部はフモトシダ的なシダ。大きな株では葉身の幅はフモトシダに比べ明らかに広い。真鶴のキタイズカグマ?に比べると葉が硬いように感じた。いこいの森のキタイズカグマは「ケブカキタイズカグマ」としたほうがよいかもしれない。
同行の方に名前を教えて頂く。以前はクジャクフモトシダと呼ばれていたが、クジャクフモトシダはフモトシダとイシカグマの雑種と推定されている。
(1)(2)スギ・ヒノキ林林床に生育するケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)
(3)(4)ケブカフモトシダ(左)とケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)
(5)ケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)、葉身下部
(6)ケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)、葉身上部
(7)ケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)、最下羽片
(8)ケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)、最下羽片の裂片
(9)ケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)、羽片裏側
(10)ケブカクジャクフモトシダ(ケブカフモトシダ×フモトカグマ)、包膜
イノモトソウの仲間
イノモトソウ、オオバノイノモトソウ、マツザカシダ、オオバノアマクサシダ、ハチジョウシダモドキなどが見られた。
ハチジョウシダモドキ Pteris oshimensis
イノモトソウ科 イノモトソウ属
あまりウエットではないスギ・ヒノキ林の林床に生育。2地点で観察。最初の森では乾燥気味の林床にパラパラと数株ずつ生育し、ありがたく観察したが、次に見た森では、半径5メートルの範囲に足の踏み場もないほどたくさん生育。同行の方からは、温暖化とシカが食べないことで、今後ますますこの仲間は増殖するのではないかと話されていた。
(1)(2)乾燥気味の林床生育するハチジョウシダモドキ
オオバノアマクサシダ Pteris terminalis var. fauriei
イノモトソウ科 イノモトソウ属
幼形成熟型のオオバノアマクサシダ。オオバノハチジョウシダと区別が難しいオオバノアマクサシダも生育しているが、今回観察したものはわかりやすいオオバノアマクサシダ。
オオバノアマクサシダの特徴(オオバノハチジョウシダとの違い)は、①頂羽片や側羽片のの先の頂小羽片の長さが5~6㎝以上ある。あるいは②左右の裂片の片側が欠けている。③小さい幼株には白斑が現れる。
チャセンシダの仲間
トラノオシダ、コバノヒノキシダ、クルマシダなどが見られた。
クルマシダ Asplenium wrightii
チャセンシダ科 チャセンシダ属
樹林内、流れのそばのローム層の切り立った崖に生育。同じ崖にはナチシケシダ?、ナガバノイタチシダやヘラシダの群生が見られる。
(1)流れのそばのローム層の切り立った崖に生育するクルマシダ
(2)クルマシダ、葉身
メシダ属の仲間
常緑のメシダ属の仲間を観察でき、小田原まで出かけてきた甲斐がありました。ヤマイヌワラビやヒロハイヌワラビなどは枯れてしまっていてわかりませんが、タニイヌワラビは瑞々しい緑の葉をつけていましした。
タニイヌワラビ Athyrium otophorum
メシダ科 メシダ属
スギ林床に生育。1つの林の中に数株が点在して生育。
(1)(2)スギ林床に生育するタニイヌワラビ
Diplaziumノコギリシダ属の仲間
ノコギリシダやミヤマノコギリシダ、コクモウクジャクを観察しました。
ミヤマノコギリシダ Diplazium mettenianum
メシダ科 ノコギリシダ属
スギ林林床の崖面に群生。半径2.5m程度の範囲に20株程度生育。この群生地の個体は一般的な個体よりも最下羽片の幅が広く切れ込みが深いものが多いので、雑種の可能性も含め、一度胞子のようすも観察してみたい。
コクモウクジャク Diplazium virescens
メシダ科 ノコギリシダ属
このあたりのシダに詳しい方にご案内していただく。深い山につながる森でシカの食み跡が目立った。あまりウエットではないスギ・ヒノキ林床に群生。この季節、上部が枯れてしまっているものも多く、きれいな葉を撮影するのが難しかった。葉の大きさは大きいもので60~70㎝程度。
(1)(2)あまりウエットではないスギ林床に生育するコクモウクジャク
(3)(4)(5)コクモウクジャク、葉柄基部に密生するの黒褐色の鱗片
(6)コクモウクジャク、最下羽片
(7)コクモウクジャク、胞子嚢群
カナワラビ属の仲間
リョウメンシダ、オニカナワラビ、オオカナワラビ、ミドリカナワラビ、ハカタシダなどが見られた。
ミドリカナワラビ Arachniodes nipponica
オシダ科 カナワラビ属
このあたりのシダに詳しい方にご案内していただく。スギ・ヒノキ植林地の林床に大小合わせて4~5株がまとまって生育していた。大きな葉は80㎝程度。(よい写真が撮れなかったので、後日再訪して撮影)
(1)スギ・ヒノキ植林地の林床に生育するミドリカナワラビ
(2)ミドリカナワラビ、葉身
(5)ミドリカナワラビ、最下羽片
(6)ミドリカナワラビ、羽片
(7)ミドリカナワラビ、小羽片
(8)ミドリカナワラビ、胞子嚢群
イノデ属の仲間
イノデ、アイアスカイノデ、アスカイノデ、ドウリョウイノデ(イノデ×アイアスカイノデ)などが見られた。
アスカイノデ Polystichum fibrillosopaleaceum
オシダ科 イノデ属
標高は約200m、海岸線からは少し離れているが、このあたりの森では時々見られる。葉柄下部の鱗片は細長くねじれる葉は濃い緑色で強い光沢がある。葉裏には毛が多い。胞子嚢群は中間につく。
(1)アスカイノデ、葉身
(2)アスカイノデ、葉柄
(3)アスカイノデ、葉柄の鱗片
(4)アスカイノデ、葉柄基部の鱗片
(3)アスカイノデ、小羽片裏側
(4)アスカイノデ、小羽片裏側と胞子嚢群
オシダ属の仲間
イヌイワヘゴ、ベニシダ、トウゴクシダ、オオベニシダ、キノクニベニシダ、ヤマイタチシダ、オオイタチシダ(アツバオオイタチシダ・ツヤナシオオイタチシダ・アオニオオイタチシダ)、イワオオイタチシダ、ヒメイタチシダ、ベニオオイタチシダ、アケボノオオイタチシダ、ナガバノイタチシダなどが見られた。
イヌイワヘゴ Dryopteris cycadina
オシダ科 オシダ属
林縁の沢沿いの明るい水辺に10株程度まとまって生育。葉は大きく80㎝程度。光沢はなく淡緑色。羽片の表面は平滑で、差異化羽片はあまり短縮していない。当羽軸の鱗片葉明るい黒褐色で辺縁にはイワヘゴに比べて弱い突起がみられる。
キノクニベニシダ Dryopteris kinokuniensis
オシダ科 オシダ属
林内でときどき見られる。端正な形をしているのでつい撮影してしまう。
スギ林林床に生育するキノクニベニシダ
アケボノオオイタチシダ
オシダ科 オシダ属
ベニオオイタチシダつやなし型と言われているが、ベニオオイタチシダとは異なる点が多いシダである。あまりウエットではないスギ・ヒノキ林の林床斜面にある程度まとまった範囲に点在して10株程度生育する。春先、展開したばかりの葉は紅色を帯びる。大きな株では葉は90~100㎝になり、葉の表面はマットな質感で光沢はなく白緑色。最下羽片下側(後側)第1小羽片は接するかクロスする。葉が大形になる点や包膜が紅色を帯びる点はベニオオイタチシダに似ているが分布が限られまれにしか見らない。関東ではここ小田原西部以外では鎌倉と神武寺でしか見ていない。(関東以外ではどのくらい観察されているのか知りません)
(1)あまりウエットではない林床に生育するアケボノオオイタチシダ
(2)アケボノオオイタチシダ、葉身
(3)アケボノオオイタチシダ、最下羽片後側第1小羽片はクロスする
ヒメイタチシダ Dryopteris sacrosancta
オシダ科 オシダ属
やや乾燥気味の林床やローム層の崖に生育。
(1)上部を樹冠に覆われた明るいローム層の崖面に生育するヒメイタチシダ
(2)やや乾燥気味の林内林床に生育するヒメイタチシダ
(1)上部を樹冠に覆われた明るいローム層の崖面に生育するヒメイタチシダ
ウラボシ科の仲間
マメヅタ、ミツデウラボシ、ノキシノブ、クロノキシノブ、フジノキシノブ?などが見られた。
クロノキシノブ Lepisorus nigripes
ウラボシ科 ノキシノブ属
観察会では、乾燥した日が続いていて、葉が巻いてしまっていて観察できなかったが、再訪した時に撮影した。
(1)上部を樹冠に覆われた石垣に生育するクロノキシノブ
(2)クロノキシノブ、有柄で柄は黒褐色、2~5㎜間隔をあけて葉をつける。