静岡駅から路線バスと車で安部川中流域に向かいました。いくつかの谷に入り皆さんでシダを探しながら歩きました。現地ではこのところ雨が降っていないためか岩壁・岩上に生育するシダは萎びているものが多く、何が生えているかよくわからず観察できなかったシダも多くありました。
イズヤブソテツの確認のため再訪しました。そのとき安部川下流日本平の谷や稜線も歩きました。追記していきます。2025年3月9日。
1安部川中流域周辺
オオハナワラビ Sceptridium japonicum
ハナヤスリ科 オオハナワラビ属
やや明るい林縁、苔むした岩上や苔に覆われた表土の薄いに林床に2種類のオオハナワラビの仲間が生育。葉縁の鋸歯は鋭い。同行の方からは一方はオオハナワラビそのものではないかとのご意見をいただきました。
標本1
苔むした岩上に生育する葉縁の鋸歯が発達するオオハナワラビ属のシダ(中央)と鋸歯が発達しないオオハナワラビ属のシダ(左上)
標本2 標本3
①②苔むした岩上に生育する葉縁の鋸歯が発達するオオハナワラビ属のシダ
葉縁に明瞭な鋸歯はあるが鋭くないオオハナワラビ属の仲間
ハナヤスリ科 オオハナワラビ属
※オオハナワラビと何かの雑種の可能性も考えられる。あらためてよい季節に胞子のようすを観察する必要がある。
前記のオオハナワラビと同じ場所に生育。やや明るい林縁、苔むした岩上や苔に覆われた表土の薄いに林床に生育。葉縁の鋸歯はあまり鋭くなく、屋久島で見たホウライハナワラビに少し似ている⇒こちら
標本1
苔むした岩上に生育する葉縁に明瞭な鋸歯はあるが鋭くないオオハナワラビ属の仲間
葉縁に明瞭な鋸歯はあるが鋭くないオオハナワラビ属の仲間、栄養葉
標本2
苔むした岩上に隣り合わせに生育する葉縁に明瞭な鋸歯はあるが鋭くないオオハナワラビ属の仲間(中央)とオオハナワラビ属のシダ(右)
①葉縁に明瞭な鋸歯はあるが鋭くないオオハナワラビ属の仲間、羽片
②葉縁に明瞭な鋸歯はあるが鋭くないオオハナワラビ属の仲間(左)とオオハナワラビ(右)
シシラン Haplopteris flexuosa
イノモトソウ科 シシラン属
沢沿いの山の急斜面に立つ大岩に着生。乾燥が激しいためそのほかカタヒバなどイワヒバ科やコケシノブ科のシダは目視ではわからなかった。
山の急斜面に立つ大岩に着生するシシラン
オオバノアマクサシダ Haplopteris flexuosa
イノモトソウ科 イノモトソウ属
オオバノハチジョウシダの無融合生殖形。幼株には白斑が入るが少し大きくなると消える。
崖に生えるオオバノアマクサシダ
クルマシダ Asplenium wrightii
チャセンシダ科 チャセンシダ属
いくつかの谷で観察された。この辺りのウエットな谷では普通に見られる。
コウザキシダ Asplenium ritoense
チャセンシダ科 チャセンシダ属
林内、クルマシダと同じ崖にも群生していたが、より乾燥した崖にも多く見られた。
①林縁の乾燥気味の崖に生育するコウザキシダ
②コウザキシダ、胞子のう群
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アオガネシダ Asplenium wilfordii
チャセンシダ科 チャセンシダ属
日陰の切り立った崖に生育。
日陰の切り立った崖に生育するアオガネシダ
イヌチャセンシダ Asplenium tripteropus
チャセンシダ科 チャセンシダ属
樹冠に覆われた渓谷沿いの切り立った岩壁に生育。
渓谷沿いの切り立った岩壁に生育するイヌチャセンシダ
①イヌチャセンシダ、羽片および中軸(向軸側)には左右に翼がある。
②イヌチャセンシダ、胞子のう群および中軸(背軸側)には翼がある。
アカメクジャク(イヨクジャク×ノコギリシダ) Diplazium okudairai × D. wichurae
メシダ科 ノコギリシダ属
まだ胞子を調べていない。切り立った崖に狭い範囲にまとまって生育。ノコギリシダは沢沿いの崖から林床まで普通に見られた。ノコギリシダに比べ羽片の幅が広く、耳垂はほとんど発達していなかった。同行者の方のお話ではアカメクジャクはノコギリシダ的な個体~イヨクジャク的な個体まで変異に富むそうである。
林内の切り立った崖に生育するアカメクジャク(イヨクジャク×ノコギリシダ)
林内の切り立った崖に生育するアカメクジャク(イヨクジャク×ノコギリシダ)
①アカメクジャク(イヨクジャク×ノコギリシダ)、羽片
②アカメクジャク(イヨクジャク×ノコギリシダ)、胞子のう群
イズヤブソテツ Cyrtomium atropunctatum
オシダ科 ヤブソテツ属
険しい渓谷の流れのそばの石組みに7~8株生育。同行の山崎厚氏が見つけられる。羽片は基部が楔形の長卵形~卵状披針形、葉の厚みはナガバヤブソテツよりも薄い。羽片辺縁には細鋸歯が見られる。まだ胞子を確認していない。雑種の可能性を含めこの夏、胞子を観察するために再訪したいと思います。
標本1
沢沿いの石組みの間に生育するイズヤブソテツ
標本2
渓流のそば、水が流れる急斜面の石組みに生育。
水が流れる急斜面の石組みに生育するイズヤブソテツ
標本3
ナガバイズヤブソテツ:仮称(ナガバヤブソテツ×イズヤブソテツ)かCyrtomium devexiscapulae × C. atropunctatumオシダ科 ヤブソテツ属 [#fbead7ab]
再訪、イズヤブソテツの特徴が確認されたので訂正します。
シカによる食害か葉の先端まで整った葉が見つからなかった。葉は厚みがあり、色は濃緑色で艶がある。羽片は基部はやや広い楔形の楕円状披針形、先端は尾状に伸びる。羽片辺縁には細鋸歯がある。包膜の中心は小さい点のように黒い。ナガバヤブソテツとイズヤブソテツの雑種と推定される。すぐそばに生えているからと言って両親がその組み合わせとは言えないが、前記のイズヤブソテツのすぐそばの生育していた。またすぐそばにはナガバヤブソテツも生育していた。同じ谷では距離は離れるがヤブソテツ(ツヤナシヤマヤブソテツ)やテリハヤブソテツも確認している。これらのシダとナガバヤブソテツとの雑種も考えられる。まだ胞子を確認していない。有性種(イズヤブソテツ)の可能性を含めこの夏、胞子を観察するために再訪したいと思います。
沢沿いの石組みの間に生育するイズヤブソテツナガバイズヤブソテツ:仮称(ナガバヤブソテツ×イズヤブソテツ)か
イズヤブソテツナガバイズヤブソテツか、葉身下部の羽片基部はやや広い楔形
①イズヤブソテツナガバイズヤブソテツか、胞子のう群
②イズヤブソテツナガバイズヤブソテツか、包膜
メヤブソテツ Cyrtomium caryotideum
オシダ科 ヤブソテツ属
上記のイズヤブソテツや雑種が見られた支流とは別の支流で観察。林縁に設けられた集水場の石組みに群生していた。範囲は狭いが個体数は多い。
林縁の石組みに群生するメヤブソテツ
切れ込みの少ないコバノカナワラビ Arachniodes sporadosoraあるいはコバノカナワラビが関わる雑種かサンヨウカナワラビか(ミドリカナワラビ×コバノカナワラビ)
オシダ科 カナワラビ属
林内、岩屑が堆積したガレ場に生育。付近に2~3株生育。2~3枚の葉を込み合ってつける。3回羽状複葉。葉は柔らかく一見ミドリカナワラビに似るが生育環境による個体変異か。あらためて胞子を観察してみたい。
(この辺りの渓谷の岩場などではコバノカナワラビは優占種で4回羽状の硬い葉を込み合ってつけている。ミドリカナワラビの生育は確認できていない。)
岩屑が堆積したガレ場に生育するコバノカナワラビあるいはコバノカナワラビが関わる雑種か
コバノカナワラビあるいはコバノカナワラビが関わる雑種か、羽片
イヌイワヘゴ Dryopteris cycadina
オシダ科 オシダ属
流れのそばの林床に1m近い大きな葉を広げ生育していた。
流れのそばの林床に生育するイヌイワヘゴ
ギフベニシダ Dryopteris kinkiensis
オシダ科 オシダ属
林縁の孟宗竹が混生するスギ林に生育。隣は茶畑。関東ではなかなかお目にかからないので最初は戸惑う。安部川周辺ではそれなりに生育しているのかもしれない。葉柄には褐色の鱗片が纏わりつくようにつく。羽片は斜上。葉の質はやや薄い。胞子のう群は中間~やや中肋寄り。
ギフベニシダ、羽片は中軸に対して斜上して付く
①林縁、孟宗竹が混生するスギ林に生育するギフベニシダ
②ギフベニシダ、羽片
①ギフベニシダ、葉柄基部の鱗片
②ギフベニシダ、葉柄下部の鱗片
③ギフベニシダ、葉柄の鱗片
①ギフベニシダ、中軸の鱗片
②ギフベニシダ、中軸の鱗片と包膜
①ギフベニシダ、ギフベニシダ、葉身上部の胞子のう群
②ギフベニシダ、葉身下部の小羽片と胞子のう群
マルバベニシダ(大形・羽片基部小羽片中裂形) Dryopteris fuscipes
あるいはエンシュウベニシダ(葉柄鱗片開出形) Dryopteris medioxima
オシダ科 オシダ属
※観察会ではマルバベニシダ似のエンシュウベニシダとしましたがマルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)に訂正します。
マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)。沢沿いの山の急斜面に立つ大岩やその周りの岩屑上に生育。大岩にはカタヒバやシシラン、コケシノブの仲間が群生していた。大岩の周辺だけで観察されたが個体数は多い。葉は大きく(50~70㎝)、葉柄・中軸も太い。葉柄基部の披針形・褐色~明褐色の鱗片は開出気味にまっすぐ伸びる(葉柄に纏わりつかない)。葉は光沢がある鮮緑色。大きな葉では羽片基部小羽片はエンシュウベニシダのそれのように幅の広い三角形、浅~中裂する。胞子のう群は小羽片の中肋寄りにつく。比較・参考のため最近川崎市早野で観察したエンシュウベニシダを掲載する。
エンシュウベニシダに似ているところ①葉は50~70㎝ありマルバベニシダよりも大きく葉柄・中軸も太い。②葉は艶のある緑色。②羽片基部小羽片は大きく、底辺が広い三角形で、中~浅裂する。
マルバベニシダに似てところ①葉柄の鱗片は葉柄に纏わりつかず開出気味にまっすぐに伸びる。②50㎝以内の小形の株では小羽片の幅が広くならずマルバベニシダに非常に似ている。
岩上の薄い腐植に根を張るマルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)
①②マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、葉身下部
①マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、葉柄下部の鱗片
②マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、葉柄の鱗片
マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、葉柄基部の鱗片
①マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、葉身下部羽片
②マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、葉身下部羽片
①②マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、葉身中部羽片基部の小羽片
①マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、羽片裏側
②マルバベニシダ(葉身大形・羽片基部小羽片中裂形)、中軸の鱗片と胞子のう群
参考 川崎市早野 2025年3月9日
エンシュウベニシダ Dryopteris medioxima
オシダ科 オシダ属
川崎市早野では以前からエンシュウベニシダが確認されていたが、今回別の地点で再確認できたので比較のために掲載します。
樹林内の急斜面に生育するエンシュウベニシダ(葉の色が飛んでしまった)
①エンシュウベニシダ、葉柄下部
②エンシュウベニシダ、葉柄の鱗片
カタイノデ Polystichum makinoi
オシダ科 イノデ属
林内、岩屑が堆積しその上をコケ類が覆ったようなところに生育。個体数は多い。葉の色は黄緑色が強いものから黒味を帯びたものまで見られた。その他、イノデの仲間はイノデやサイゴクイノデ・ヒメカナワラビが観察された。
岩場の薄い腐植の林床に生育するカタイノデ
ヒメカナワラビ Polystichum tsus-simense
オシダ科 イノデ属
林内の岩壁に生育している。胞子のう群は葉身下側からつくが葉身全体につく場合も見られる。
スギの落ち葉が覆った岩場に生育するヒメカナワラビ
①切り立った岩壁に生育するヒメカナワラビ
②ヒメカナワラビ、胞子のう群
イワヒトデ Leptochilus ellipticus
ウラボシ科 オキノクリハラン属
流れのそばの岩場に群生。
流れのそばの岩場に群生するイワヒトデ
オオハナワラビ Sceptridium japonicum
ハナヤスリ科 オオハナワラビ属
稜線沿いのあまりウエットではない夏緑広葉樹や照葉樹が生える林床に生育。
稜線沿いのあまりウエットではない夏緑広葉樹や照葉樹が生える林床に生育するオオハナワラビ
シチトウハナワラビ Sceptridium japonicum
ハナヤスリ科 オオハナワラビ属
上記のオオハナワラビと同じ環境で近くに生育。オオハナワラビに似るが葉縁の鋸歯は浅く鋭くない。
稜線沿いのあまりウエットではない夏緑広葉樹や照葉樹が生える林床に生育するシチトウハナワラビ
アイノコハシゴシダか(コハシゴシダ×ハシゴシダ) Amauropelta angustifrons × A. glanduligera
ヒメシダ科 ハシゴシダ属
不思議なシダである。アイノコハシゴシダとしたがなんだかすっきりしない。葉身は長卵形、葉や羽片の長さや幅が大きい。最下羽片前側小羽片のみ独立し残りの羽片葉羽軸に合着する。
谷筋の上部、両側をスギ・ヒノキ林に囲まれた明るい疎林林床斜面に生育。栄養葉を何本もつける大株。この季節なのに常緑性のように青々と生育。胞子のう群をつけた葉は見つからなかった。この夏には胞子を採取し観察してみたい。
疎林のガレた崖に生育するアイノコハシゴシダか(コハシゴシダ×ハシゴシダ)
①②アイノコハシゴシダか(コハシゴシダ×ハシゴシダ)アオハリガネワラビ、最下羽片基部小羽片
ハシゴシダ Amauropelta glanduligera
ヒメシダ科 ハシゴシダ属
あまりウエットではない林床に生育。この季節、葉は黒ずんでいるがこの地域ではほぼ常緑性。
あまりウエットではない林床に生育するハシゴシダ