今回は埼玉県 小川町・ときがわ町でシダを観察しました。人家の庭先や畑で栽培されているミカンの株をよく見かけました。通過した寄居駅のホームにはミカン狩りの案内も出ていました。この辺りでミカンがよく栽培されているのは暖かい気候だけでなく土壌の地質も関係しているののかもしれません。また同行の方からは付近の山や林床で見られたタブノキやアリドウシなどからもこの辺りの気候が温暖であることが窺えるとのお話を伺いました。
ウチワゴケ Crepidomanes minutum
コケシノブ科 アオホラゴケ属
林内のウエットな岩壁に群生する。
ウチワゴケ、胞子のう群はラッパ形の包膜をつける
コウヤコケシノブ Hymenophyllum barbatum
コケシノブ科 コケシノブ属
この小さなシダも林内のウエットな岩壁でよく見られました。
林内のウエットな岩壁に生育するコウヤコケシノブ
フユノハナワラビ Sceptridium ternatum
ハナヤスリ科 オオハナワラビ属
林縁の栗の畑の下に群生していた。一緒にアイフユノハナワラビと思われる株も生育。
林縁の栗の畑の下に群生するフユノハナワラビの栄養葉
オオハナワラビ Sceptridium japonicum
ハナヤスリ科 オオハナワラビ属
アイフユノハナワラビか Sceptridium japonicum × S. ternatum(オオハナワラビ×フユノハナワラビ)
ハナヤスリ科 オオハナワラビ属
上記のフユノハナワラビから30㎝ほど離れたところに生育。栄養葉はそれなりに大きく育っていたが胞子葉は見当たらなかった。栗畑の中ではオオハナワラビは確認できなかった。
林縁の栗の畑の下に群生するフユノハナワラビに混じって生育するアイフユノハナワラビか
オオキジノオ Plagiogyria euphlebia
キジノオシダ科 キジノオシダ属
ウエットな谷沿いの急傾斜の岩場や岩壁に群生。
ウエットな谷沿いの急傾斜の岩場や岩壁に群生するオオキジノオ
キジノオシダ Plagiogyria japonica
キジノオシダ科 キジノオシダ属
オオキジノオが生育する谷と隣り合う谷ではキジノオシダが生育していた。この谷ではオオキジノオは確認できなかった。
谷沿いの林床斜面に生育するキジノオシダ
オオバノアマクサシダ Pteris terminalis var. fauriei
イノモトソウ科 イノモトソウ属
ウエットな谷に生育。羽片の先端の小羽片(頂小羽片)は長い。1株だけ観察。
ウエットな谷に生育するオオバノアマクサシダ
再調査時に観察されたオオバノアマクサシダ。群生地も見られた。
クルマシダ Asplenium wrightii
チャセンシダ科 チャセンシダ属
小川町 大聖寺付近の谷で観察。クルマシダとしては最北の生育地になるのであろうか。同行の方から、クルマシダは以前小川町かときがわ町で観察されたことがあるとのことで2例目となる。沢沿いの林床の崖に大株を中心に10株程度生育。大きい葉は80㎝に達する。現地で観察されても採取は控えていただきたい。
スギ林内を流れる沢沿いの崖に生育するクルマシダ
①スギ林内を流れる沢沿いの崖に生育するクルマシダ(別角度から撮影)
②クルマシダ、葉身
''ヒメシダ科 ヒメワラビ属の仲間
林内の林道沿い小川に架かる橋のそばでそこだけ開けたやや明るい環境にヒメワラビ属の3種?が生えていました。
やや明るい林縁に生育する3種?のヒメワラビ属のシダ
ヒメワラビ Macrothelypteris oligophlebia
ヒメシダ科 ヒメワラビ属
葉は大きく80㎝程度、黄緑色。大きな小羽片を含めどの小羽片も無柄、小羽片基部は楔形。小羽軸上は有毛で葉面はほぼ無毛。胞子には目立った襞は無い。(ヒメワラビは生態写真を撮り忘れたました)
ヒメワラビ、葉身
ミドリヒメワラビ Macrothelypteris viridifrons
ヒメシダ科 ヒメワラビ属
葉の大きさは60~80㎝、緑色。羽片下部の大きな小羽片には短柄があり、小羽片基部は切形~非常に広い楔形。小羽軸・裂片の中肋を含め葉面には毛が目立つ。胞子には襞がある。
林縁の林道脇に生育するミドリヒメワラビ
①ミドリヒメワラビ、小羽片基部
②ミドリヒメワラビ、葉面の毛
ヒメワラビに似た形態を表すミドリヒメワラビ
あるいは胞子の形が整うアイヒメワラビ(ヒメワラビ×ミドリヒメワラビ)あるいは別種
ヒメシダ科 ヒメワラビ属
林道沿い左右の森がやや開けた場所にヒメワラビ・ミドリヒメワラビとこのヒメワラビに見えるミドリヒメワラビが生育。外観はヒメワラビ的。大形で葉は1m程度あり、黄緑色。羽片下部の大きな小羽片には短柄があり、小羽片基部はヒメワラビよりは穏やかな楔形(今までヒメワラビの大型の株は羽片下部の小羽片に短柄がつくと考えていたが再考しなければならない)。小羽軸および裂片の中肋は有毛、葉面はほぼ無毛。胞子にはミドリヒメワラビと同じ襞がある。
現地ではアイヒメワラビ(ヒメワラビ×ミドリヒメワラビ)ではないかと思われたが、持ち帰り胞子を観察するとミドリヒメワラビ的であった。胞子数は60個程度確認、胞子の大きさ・形は整い有性生殖と推測される。
ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間あるいは胞子の形が整うアイヒメワラビ(ヒメワラビ×ミドリヒメワラビ)
ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、葉身(葉身上側半分)
①ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、羽片
②ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、羽片裏側
①②ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、羽片下部小羽片
①ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、羽片
②ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、葉面の毛
①②ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、一つの胞子のうを壊したようす
①ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、胞子側面
②ヒメワラビに見えるミドリヒメワラビの仲間、胞子上面
ハシゴシダ Amauropelta glanduligera
ヒメシダ科 ハシゴシダ属
稜線近くの林床に群生していた。
稜線近くの林床に群生するハシゴシダ
シケチシダ(大形・2回羽状複葉) Athyrium decurrentialatum
メシダ科 メシダ属
ウエットな谷筋に生育。大きいものでは葉身だけで60㎝に達する株も見られた。2回羽状複葉。
ウエットな谷筋に生育する大形・2回羽状複葉のシケチシダ
①大形・2回羽状複葉のシケチシダ、羽片
②大形・2回羽状複葉のシケチシダ、胞子のう群
①②大形・2回羽状複葉のシケチシダ、1つの胞子のうを壊したようす
①大形・2回羽状複葉のシケチシダ、胞子側面
②大形・2回羽状複葉のシケチシダ、胞子上面
イワヘゴ Dryopteris atrata
オシダ科 オシダ属
再調査時、小川町古寺の森で観察した。林内を通る林道脇の林床に生育していた。
林道脇の林床に生育するイワヘゴ 詳細は⇒こちら
ベニシダ Dryopteris erythrosora
あるいはベニシダの仲間
オシダ科 オシダ属
ハチジョウベニシダが見つかるかもしれないと思い、参加者の皆さんとベニシダに出会うと葉の質や羽片・小羽片の形などを観察しました。この時期は胞子を調べることができないのであらためて胞子のようすを観察してみたいと思います。
標本1
沢沿いの林床に生育するベニシダか
標本2
同行の方が観察したベニシダか、羽片
※標本2の株は来年の7月くらいには胞子を観察し画像を掲載する予定です。
マルバベニシダ Dryopteris fuscipes
オシダ科 オシダ属
痩せ尾根のような急斜面を下っていると途中、マルバベニシダの群生地に出会いました。ところどころ岩が露出する急傾斜地に生育。群生と言っても密集して生えるのではなく、ある範囲(およそ20×20m)にまとまって点在して生育している。マルバベニシダは一般にそれほど大きなシダではなく、葉柄もやや華奢で葉身は25~40㎝。大きな株では葉身下部羽片の柄が発達していました。葉柄下部の鱗片は褐色~暗褐色。
フィールドでは小形のオオマルバベニシダ(エンシュウベニシダ)と見間違いやすいが、よく写真を見比べると違いが明瞭なことがわかる。
標本2 鱗片黒褐色の株
同行の方が別地点で観察された株。
①別地点で採取した葉柄下部鱗片黒褐色のマルバベニシダ
②葉柄下部鱗片黒褐色のマルバベニシダ、葉身裏側
①葉柄下部鱗片黒褐色のマルバベニシダ、羽片
②葉柄下部鱗片黒褐色のマルバベニシダ、胞子のう群
ベニオオイタチシダ Dryopteris sparsa
オシダ科 オシダ属
関東南部ではよく見かけるシダであるが、ここではあまり多くは出会わなかった。葉は平面的で光沢が強い。尾根付近を通る深い切通しの崖面に生育していた。
林内、急斜面の崖に生育するベニオオイタチシダ
ナガバノイタチシダ Dryopteris sparsa
オシダ科 オシダ属
谷によっては個体数が多くやや普通に見られた。ほとんど見られない谷もあった。大形になるものが多く80㎝程度の株も見られた。
林内、沢筋に生育するナガバノイタチシダ
サイゴクイノデ Polystichum pseudomakinoi
オシダ科 イノデ属
観察できた個体数は少ない。
林内林道脇に生育するサイゴクイノデ
ドウリョウイノデ (アイアスカイノデ×イノデ)Polystichum longifrons × P. polyblepharum
オシダ科 イノデ属
林内林床ではひときわ大きく良く目立っていた。
いくつかのイノデの仲間が生育する谷でひときわ大きく目立っているドウリョウイノデ
①ドウリョウイノデ、葉柄
②ドウリョウイノデ、葉柄下部の鱗片
サカゲイノデ Polystichum retrosopaleaceum
あるいはサカゲイノデが関わる雑種
オシダ科 イノデ属
林内、沢の上部(水は流れていない)、同行の方が観察される。まだ胞子はつけていない。成株ではないが付近に3株程度確認。サカゲイノデにしては中軸に幅に対して長さが短いウロコ状に貼りつく鱗片が確認できなかった。代わりに広披針形の鱗片が下向きにやや貼りつくようについていた(サカゲイノデの未成株の特徴と思われる)。
※その後の再調査で、葉柄基部の鱗片などを確認し、サカゲイノデ(未成株)そのものの可能性が高くなったので訂正いたします。
谷の上部、やや広い谷の林床に生育するサカゲイノデ(未成株)
①サカゲイノデ(未成株)、葉身
②サカゲイノデ(未成株)、葉柄