日が短くなってきたので朝早くから観察を始めました。この辺りはゆずの栽培が盛んで無人の販売所ではゆずや福ミカン(柑子)が安くで売られていました。毛呂山山麓周辺は以前、山麓を中心にこの辺りの植生に詳しい方に案内していただいたことがあります。今回は谷に沿って山地上部まで歩きました。地質はおもにチャートと玄武岩ですが、一部小規模ですが石灰岩地帯も見られました。
※毛呂山山麓周辺のシダは⇒こちら
不明なシダ
ひろちょん氏が林内の切り立った高い岩壁で発見されました。周辺にはわずかにフクロシダが生育。夏緑性と思われる。中軸向軸側で中軸に沿って中央は凹み、中軸は2回2叉している。羽片は全縁、あるいは歪な形で先端は波打つ。葉身先端は波打ち獅子葉状。包膜は何となくフクロシダに似ている。
林内の岩壁に生育する不明シダ
カタヒバ Selaginella involvens
イワヒバ科 イワヒバ属
林内、渓流沿いなどウエットな空気に包まれた岩上などに生育していた。
渓流沿いのウエットな空気に包まれた岩上に生育するカタヒバ
コシダ Dicranopteris linearis
ウラジロ科 コシダ属
風化し脆くなった岩壁に群生(点在)していた。1地点で観察。同じ科のウラジロは時々お目にかかった。
風化し脆くなった岩壁に群生するコシダ
ホラシノブ Odontosoria chinensis
ホングウシダ科 ホラシノブ属
上部を樹冠に覆われた明るく乾燥気味の風化した崖に生育、個体数は多い。その他2か所くらいで観察。
ウスヒメワラビ Acystopteris japonica
ナヨシダ科 ウスヒメワラビ属
よく茂った林内の渓流沿いの転石などがむき出しの砂礫地や周辺の林床に生育していた。
渓流沿いに生育するウスヒメワラビ
①渓流沿いに生育するウスヒメワラビ
②ウスヒメワラビ、胞子のう群
トキワシダ
チャセンシダ科 チャセンシダ属
林内、渓流のそば、ウエットな空気に包まれた岩壁に生育していた。
渓流のそばの岩壁に生育するトキワシダとカタヒバ
ヒメヤワラシダ
ヒメシダ科 シマヤワラシダ属
山地上部、稜線近くのスギ・ヒノキ林林床に50㎝四方に群生。その群生が点在して生育していた。ヤワラシダにくらべ、葉・羽片は細長く、羽片はヤワラシダに比べ、①羽片は細長く羽片上部はやや細長く伸びる。②葉身下部の羽片は間隔を空けてつけ、幅はヤワラシダほど広くならない。③根茎は細く・長く伸び、やや間隔を空けるようにして葉をつける。
山地上部あまりウエットではない斜面の林床に疎に群生するヒメヤワラシダ
①ヒメヤワラシダ、葉身(栄養葉)
②ヒメヤワラシダ、葉身下部
①山地上部あまりウエットではない斜面の林床に疎に群生するヒメヤワラシダ
②ヒメヤワラシダ、根茎の先の新芽
①ヒメヤワラシダ
②ヒメヤワラシダ(上)とヤワラシダ(下)の比較
ヤワラシダ Metathelypteris laxa
ヒメシダ科 シマヤワラシダ属
ウエットな林床に普通に見られる。根茎は這い、隣り合う葉は込み合い、葉は叢生しているように見える。
①ウエットな林床に生育し葉を叢生するヤワラシダ
②ヤワラシダ、葉身下部
3回羽状深裂ヤマイヌワラビ Athyrium vidalii
メシダ科 メシダ属
渓流の流れのそばに生育。大形のシダ、葉の大きさは80~100㎝。3回羽状深裂。向かい合う小羽片(前側小羽片と後側小羽片)は羽軸に対して直交ではなくやや角度をつけて羽軸についていた。葉身下部羽片の小羽片は深裂し大きいので、オオサトメシダ(サトメシダ×ヤマイヌワラビ)Athyrium deltoidofrons × A. vidaliiではないかと思ったが、胞子は正常であり大形のヤマイヌワラビであることが分かった。オオサトメシダはヤマイヌワラビに比べると、①向かい合う小羽片・裂片が羽軸・小羽軸に直交気味につく。②包膜の辺縁が明瞭にほつれる(今回は観察できなかった)。
渓流の流れのそばに生育する3回羽状深裂のヤマイヌワラビ
ホソバイヌワラビ Athyrium iseanum
メシダ科 メシダ属
この季節、葉身先端付近にむかごをつけていた。ウエットな林床に生育。
ヒロハイヌワラビ Athyrium wardii
メシダ科 メシダ属
一つの渓流沿いでは葉の大きさが45㎝程度の良く成長した株が時々観察された。
渓流沿いに生育するヒロハイヌワラビ
①ヒロハイヌワラビ、胞子のう群
②ヒロハイヌワラビ、羽軸裏側の毛
オオヒメワラビ Deparia okuboana
メシダ科 シケシダ属
上部を樹冠に覆われた川沿いの山道に生育していた。葉の大きさは80㎝程度。2回羽状複葉~深裂。
上部を樹冠に覆われた川沿いに生育するオオヒメワラビ
オオヒメワラビモドキ Deparia unifurcataオオヒメワラビ(小形・鱗片開出)
メシダ科 シケシダ属
※最初は関東で観察されるオオヒメワラビモドキ似のオオヒメワラビとして掲載しましたが、葉柄・中軸の開出する鱗片や羽軸裏側の棘のような突起などからオオヒメワラビモドキに訂正します。
オオヒメワラビモドキ似のオオヒメワラビ。林内、渓流の流れのそばに生育していた。葉の大きさは50㎝程度。単羽状複葉。
渓流の流れのそばに生育するオオヒメワラビモドキオオヒメワラビ(小形・鱗片開出)
オオヒメワラビモドキオオヒメワラビ(小形・鱗片開出)、葉柄基部の鱗片
①オオヒメワラビモドキオオヒメワラビ(小形・鱗片開出)、中軸(裏側)の鱗片
②オオヒメワラビモドキオオヒメワラビ(小形・鱗片開出)、羽片裏側
オニカナワラビ(頂羽片を形成する株) Arachniodes chinensisトットリカナワラビ(オニカナワラビ×ハカタシダ) Arachniodes chinensis × A. simpliciorあるいは頂羽片様の葉先を持つオニカナワラビ Arachniodes chinensis
オシダ科 カナワラビ属
※12/29の再調査時、この株の胞子葉を観察した。胞子葉は一般的なオニカナワラビ同様、羽片数は多く頂羽片を形成せず葉は先端に行くに従い徐々に細くなり、胞子のうは弾けていおり、雑種ではないように思われたためオニカナワラビ(頂羽片を形成する)に訂正致します。
渓流沿い日陰の林道脇切り立った法面から垂れ下がるように生育していた。ハカタシダ似のオニカナワラビの可能性もある。まだ胞子のようすを確認していないので、よい季節に観察してみたい。
ハカタシダに似ている点:①頂羽片が発達する。
オニカナワラビに似ている点:①葉が厚く光沢あり。②2形性が明瞭ではない。③胞子をつけた葉を含め側羽片の幅が広く、羽片数が多い。
2形性のようすや胞子のようすのなど確認しなければならないことがあるので再訪したい。
日陰の林道脇切り立った法面から垂れ下がるように生育するオニカナワラビトットリカナワラビか
①頂羽片を形成するオニカナワラビトットリカナワラビか
②オニカナワラビトットリカナワラビか 、羽片裏側胞子のう群
12/29再調査に撮影
①頂羽片を形成するオニカナワラビ、胞子葉
②頂羽片を形成するオニカナワラビ、胞子葉裏側
①頂羽片を形成するオニカナワラビ、葉柄下部
②頂羽片を形成するオニカナワラビ、葉柄下部の鱗片
①頂羽片を形成するオニカナワラビ、胞子のう群
②頂羽片を形成するオニカナワラビ、胞子のうが弾けた胞子のう群
ハカタシダ Arachniodes simplicior
オシダ科 カナワラビ属
林内の林縁の崖や沢沿いの岩屑地で観察された。
日陰の林道脇切り立った法面から垂れ下がるように生育するハカタシダ
ナガバヤブソテツ(羽片長葉) Cyrtomium devexiscapulae
オシダ科 ヤブソテツ属
ナガバヤブソテツと考えられる。ただ一般的なナガバヤブソテツ寄りも羽片が長い個体。1地点、5株程度がまとまって生育。包膜のようす。胞子のようすは確認できなかった。
上部を樹冠に覆われた崖に生育する羽片が長いナガバヤブソテツ
羽片が長いナガバヤブソテツ、葉身
羽片が長いナガバヤブソテツ、葉身
不明なナガバヤブソテツ(包膜白色・厚葉) あるいは大形のヒメオニヤブソテツか
オシダ科 ヤブソテツ属
明るい、岩が風化した急斜面の崖に生育。1株。羽片はナガバヤブソテツに比べ厚みがあり、基部葉心形~円形、葉の辺縁は波打つ。また、包膜が黒褐色を帯びず白色であった。無融合生殖種のオニヤブソテツの可能性も考えたが、胞子は正常で60個以上確認でき、有性生殖種と推定される。包膜の白いナガバヤブソテツとするしかないが、今まで包膜の白いオニヤブソテツの仲間は八丈島のナガバヤブソテツ似のシダと三浦半島城ヶ島・真鶴半島のヒメノキシノブだけである。
確認できた包膜が少なかったので、また観察によい季節に再訪し色を再確認してみたい。
日当たりのよい急斜面の崖に生育する包膜が白いナガバヤブソテツ
①②包膜が白いナガバヤブソテツ、1つの胞子のうを壊したようす
①包膜が白いナガバヤブソテツ、胞子側面
②包膜が白いナガバヤブソテツ、胞子上面
ミヤコヤブソテツ Cyrtomium yamamotoi
オシダ科 ヤブソテツ属
林内の薄暗い岩壁に生育。1地点に10株以上がまとまって生育していた。葉は60~80㎝。羽片は淡緑色・艶が無く・形は刃物のように鋭く尖ることが多い。包膜は黒褐色で辺縁は淡色。
日壁の切り立った崖に生育するミヤコヤブソテツ
ベニシダ Dryopteris erythrosora
オシダ科 オシダ属
山麓から山地上部。ウエットな環境から乾燥気味の林床まで普通に見られた。変異が多いシダである。
ウエットな林床に生育するベニシダ
ベニシダ2
オシダ科 オシダ属
小羽片がやや波打つようなベニシダの仲間。山麓の岩壁の周辺や岩屑が堆積したようなところ15m四方程度の範囲に生育。ハチジョウベニシダかもしれないので良い季節に胞子のようすを改めて調べてみたい。どちらにしても胞子を観察したときには報告を追加します。
ウエットな林床に生育するベニシダ(小羽片が波打つ)
サイゴクベニシダ Dryopteris championii
オシダ科 オシダ属
山地上部、岩が風化した崖に生育。周辺には5~6株確認。葉柄・中軸には明るい褐色の鱗片が密につく。葉は厚く・光沢がある。胞子のう群はやや辺縁寄りにつく。
岩が風化した崖に生育するサイゴクベニシダ
①岩が風化した崖に生育するサイゴクベニシダ
②サイゴクベニシダ、葉身下部
①サイゴクベニシダ、葉身裏側
②サイゴクベニシダ、胞子のう群
そのほかの植物
各植物の特徴については同行の学生の方から教えていただきました。
タブノキ
毛呂山の一つの東斜面植林地林床ではタブノキが低~中高木の中心になり、シロダモはわずかに見られる程度でした。
植林地林床に生育するタブノキ
コアカソ
葉だけを見ていると草本のように見えるが小低木。
①湿った谷沿いの林床に生育する落葉の小低木コアカソ
②コアカソ、葉