久しぶりに箱根芦ノ湖周辺でシダを観察しました。箱根中央火口丘~大涌谷周辺はいまだに入山規制が続いています。歩けると思っていた登山道も荒れ果ててしまったのか、今回は参加者の皆様には道のないブッシュを藪漕ぎすることとなりご迷惑をおかけいたしました。しかし、コヒロハシケシダやミニチュアのようなハイホラゴケの仲間にお目にかかることができました。
トウゲシバの仲間
普通のトウゲシバ、ホソバトウゲシバが見られた。
林内では、羽片はネクタイ形(倒披針形)と線形の葉をもつホソバトウゲシバが見られた。
ホソバトウゲシバ Huperzia serrata var. serrata
ヒカゲノカズラ科 コスギラン属
ホソバトウゲシバの葉は小さく線形。そのため低地の森で普通にみられる葉が倒披針形のトウゲシバに比べ「むかご」がずっと大きく見える。
①湖畔の森の林床に生育するホソバトウゲシバ
②湖畔の森の林床に生育するホソバトウゲシバ
③葉が細いためむかごが大きく目立つホソバトウゲシバ
ハイホラゴケの仲間
ハコネハイホラゴケ(仮称)、コウヤコケシノブ、ホソバコケシノブなどが見られた。
ハコネハイホラゴケ(仮称)
コケシノブ科 ハイホラゴケ属
ミニチュアのようなハイホラゴケの仲間。同行されたひろちょん氏が見つけられる。当日の曇り空も影響したのか非常に薄暗い切り立ったウエットな岩壁の下部に群生。普通、暗くて見過ごすところを、変わっている株にに気づかれ、観察することができた。群生するハコネハイホラゴケ(仮称)の葉はすべて非常に小さく2~3㎝程度、普通のハイホラゴケの仲間に比べ1回枝分かれが少なく2~3回羽状に分かれる。羽片は5mm程度。羽片は立体的にならず葉は扁平。羽軸・小羽軸にも淡褐色の鱗片をつけ、包膜は丈の短いラッパ形で辺縁はゆるく切れ込む(波打つ)。1個の胞子のう中には胞子数50個程度確認、大きさ・形葉整い有性生殖種と考えられる。
※今まで多くのハイホラゴケの仲間を見てきましたが、最も小さいハイホラゴケの仲間です。自生する環境が明るすぎたり乾燥気味であったりすると成長に障害が出ることもありますが、この場所はハイホラゴケの仲間が成長するのに問題のない良好な環境と思われます。
①薄暗い切り立ったウエットな岩壁に群生するハコネハイホラゴケ(仮称)
⑯⑰ハコネハイホラゴケ(仮称)、1つの胞子のうを壊したようす
⑱⑲ハコネハイホラゴケ(仮称)、1つの胞子のうを壊したようす
ハリガネワラビの仲間
ハリガネワラビ、イワハリガネワラビ、アオハリガネワラビなどが見られた。
アオハリガネワラビ Thelypteris japonica f. formosa
ヒメシダ科 オオハシゴシダ属
やや薄暗い林内に生育することが多い。ハリガネワラビに比べると、全体に小形で葉柄は華奢。葉柄の下部葉えんじ色を帯びるがハリガネワラビよりも色が薄く淡緑色に見える部分が多い。胞子のう群は中間につくことが多い。包膜は有毛であるがハリガネワラビよりは目立たない。
①薄暗い林内に生育するアオハリガネワラビ
⑧アオハリガネワラビ胞子1、上面
⑨アオハリガネワラビ胞子1、上面
⑩アオハリガネワラビ胞子2、上面
⑪アオハリガネワラビ胞子2、上面
⑫アオハリガネワラビ胞子1、上面
⑬アオハリガネワラビ胞子1、上面
⑭アオハリガネワラビ胞子2、上面
⑮アオハリガネワラビ胞子2、上面
シケシダの仲間
ホソバシケシダ、シケシダ、フモトシケシダ、ムクゲシケシダ、コヒロハシケシダ?などが見られた。
ムクゲシケシダ Deparia kiusiana
メシダ科 シケシダ属
箱根芦ノ湖周辺では時々観察される。観察された個体は胞子のう群はつけていたが胞子が観察できずムクゲシケシダとほかのシケシダの仲間の雑種の可能性も考えられる。
①林内に生育するムクゲシケシダ
②林内に生育するムクゲシケシダ
③ムクゲシケシダ、中軸の鱗片(胞子をつけた葉)
⑥ムクゲシケシダ胞子をつけた葉
⑦ムクゲシケシダ胞子をつけた葉、中軸の鱗片
コヒロハシケシダ Deparia pseudoconilii var. subdeltoidfrons
メシダ科 シケシダ属
今回の観察会では、以前コヒロハシケシダを観察した場所を目指したが、山道がブッシュで覆われ目的地まで行くことができなかった。付近の湖畔の樹齢を経た樹木が茂る山道沿いの林床に15株程度ある程度まとまって生育していた。最初はコヒロハシケシダと別のシケシダの仲間との雑種ではないかと考えたが、付近で最下羽片が発達しやや葉身が長めのシケシダの仲間の胞子を観察したところ雑種であることが確認され、この株は胞子が正常であればコヒロハシケシダと言える。
①コヒロハシケシダ
⑥コヒロハシケシダ、胞子のう群
フモトコヒロハシケシダ:仮称(フモトシケシダ×コヒロハシケシダ)が関わる雑種 Deparia pseudoconilii × D. pseudoconilii var. subdeltoidofrons
メシダ科 シケシダ属
コヒロハシケシダを観察したところからそれほど離れていないやや開けた道沿いに生育していた。最下羽片はフモトシケシダよりも目立って長く向軸側に開出するようにしてつける。中軸には白い毛に混じって栗色の鱗片が確認できる。包膜は全縁に見え辺縁は巻き込む。外観から相手はシケシダと思われるがフモトシケシダかもしれない。新芽はフモトシケシダ同様栗色の鱗片に覆われる。
コヒロハシケシダの近くで観察されたフモトコヒロハシケシダ:仮称(フモトシケシダ×コヒロハシケシダ)
葉柄・中軸には白い毛に混じって栗色の鱗片がつくフモトコヒロハシケシダ(仮称)
①②中軸には白い毛に混じって栗色の鱗片がつくフモトコヒロハシケシダ(仮称)
①②フモトコヒロハシケシダ:仮称(コヒロハシケシダ×フモトシケシダ)、包膜
①②フモトコヒロハシケシダ(仮称)、空の胞子のうの中に有色(黒褐色)の胞子が含まれる
①②フモトコヒロハシケシダ(仮称)、一つの胞子のうを壊したようす
メシダ属の仲間
ハコネシケチシダ(イッポンワラビ×シケチシダ) Athyrium crenulatoserrulatum × A. decurrentialatum
メシダ科 メシダ属
植物体全体に毛が少なくイッポンワラビに非常によく似ていた。葉は黄緑色・柔らかい草質。小羽片には短柄があり、新芽の羽軸と中軸の接点はやや紅色を帯びていた。外観に表れているハコネシケチシダの特徴は、葉がイッポンワラビよりもスリムな卵状披針形・羽片数が多い・胞子のう群が楕円形~円形である点であった。胞子のうを壊して胞子を観察すると、胞子の形や大きさは乱れ、胞子数は60近く数えることができたものはごく少なく、多くの胞子のうの胞子数は20~30個程度と少なかった。雑種は多くの場合、胞子の大きさ・形が乱れていても数は60個近く数えることができるので胞子数の少なさからは無融合生殖種の可能性をうかがわせる。
②木漏れ日が射す明るい林床に群生するハコネシケチシダ
③ハコネシケチシダ、葉身
キヨタキシダ Diplazium squamigerum
メシダ科 ノコギリシダ属
林内に群生せず点在して生育していた。葉の大きさは35~45㎝。胞子の数・大きさ・形はほぼ整い有性生殖種と考えられる。
①林内に生育するキヨタキシダ