牧野植物同好会の観察会に参加して1
6月4~5日、北杜市周辺での牧野植物同好会の観察会に参加させていただき、樹木から草花、シダまでいろいろな植物を観察することができました。まず、川俣川渓谷で観察されたシダや種子側物を紹介いたします。
ヒメスギラン Huperzia miyoshiana
(ヒカゲノカズラ科 コスギラン属)
渓流の大岩(多分切り立った両岸の岩壁の一部が崩れたものであろう)の側面にヒメスギランが着生。苔むした大岩の上にはちょうどベニバナイチヤクソウが群生し、美しい花を咲かせていました。
①②切り立った岩壁に着生するヒメスギラン
③ヒメスギラン、新芽
④ヒメスギラン、先端につくむかご
ヤマドリゼンマイ Osmundastrum cinnamomeum var. fokien
(ゼンマイ科 ヤマドリゼンマイ属)
林床やウエットな湿地に群生する。栄養葉と胞子葉に分かれ、胞子葉は胞子を散布後に枯れる。
①渓谷沿いの林床に生育するヤマドリゼンマ
①栄養葉と胞子葉に分かれるヤマドリゼンマイ
オニゼンマイ Osmunda claytoniana
(ゼンマイ科 ゼンマイ属)
林床やウエットな湿地に群生する。編笠山の登山口ではやや乾燥気味のミズナラーカラマツ林の林床に群生していた。葉身の中間の羽片にのみ胞子をつけ、胞子散布後はその部分だけ枯れる。
③ミズナラーカラマツ林の林床に群生するオニゼンマイ
④葉身中間の羽片に胞子をつけるオニゼンマイ
ホソバコケシノブ(包膜の辺縁が鈍鋸歯type)ヤツガタケホソバコケシノブ(仮称)(コケシノブ科 コケシノブ属)
ウエットな空気に包まれた渓谷内の切り立った岩壁に群生。葉の大きさは8~12㎝。一般にホソバコケシノブの包膜は全縁の蕾形であるが、川俣川で観察された個体の包膜は暖地に生えるオオコケシノブのように緩やかな鋸歯を持ちぼぼ円形。包膜の辺縁には微毛が生える。
※ホソバコケシノブの個体変異なのかそれとも別種なのか、今後調べていきたい。
①渓谷の切り立った崖に群生する包膜鈍鋸歯ホソバコケシノブ
②包膜鈍鋸歯ホソバコケシノブ、包膜
ミヤマワラビ Phegopteris connectilis(ヒメシダ科 ミヤマワラビ属)
渓流沿いの林床や岩上に群生する。葉柄と葉身の境でやや軸折れする。ゲジゲジシダの仲間で包膜はない。
①渓流沿いの岩上に群生するミヤマワラビ
タカネサトメシダ Athyrium pinetorum
(メシダ科 メシダ属)
滝壺に生育。ヤマイヌワラビに似るが、葉柄は長く葉身と同長か長い。葉柄は紅色帯びず黄緑色。葉の大きさは45~55cm。包膜の辺縁は和紙を裂いた様に激しくほつれる。
①②滝壺に生育するタカネサトメシダ
③タカネサトメシダ、葉柄および鱗片
④タカネサトメシダ、包膜
ミヤマメシダ Athyrium melanolepis
(メシダ科 メシダ属)
亜高山や緯度の高い地方へ行くと普通にみられる。川俣渓谷ではあまり多く見られなかった。葉の大きさは45~60㎝。葉柄の鱗片は黒色・光沢があり曲がる。包膜の辺縁はほつれる。
①渓流沿いの林内に生育するミヤマメシダ
②ミヤマメシダ、葉柄の鱗片
オオメシダ Deparia pterorachis
(メシダ科 シケシダ属)
渓谷のそばの岩場。まだ葉を展開中であったが、大きなシダである。生育環境にもよるが1~1.5mになる見事なシダである。
①渓谷のそばの岩場や林床に生育するオオメシダ
②オオメシダ、葉柄基部の鱗片
キヨタキシダ Diplazium squamigerum
(メシダ科 ノコギリシダ属)
低山のウエットな谷で普通にみられる。川俣川渓谷でも観察される。単独で点在して生育。根茎は短く這い葉を込み合ってつける。2回羽状複葉、小羽片は深~中裂する。
①林内に点在して生育するキヨタキシダ
ミヤマシダ Diplazium sibiricum var. glabrum
(メシダ科 ノコギリシダ属)
渓谷沿いでしばしば群生する。キヨタキシダに似るがもう1回切れ込む。根茎は長く這い間隔を空けて葉をつける。3回羽状複葉、裂片にはゆるい鋸歯がある。
①渓流沿いの林床に群生するミヤマシダ
②ミヤマシダ、最下羽片
ミヤマキヨタキシダ (ミヤマシダ×キヨタキシダ)Diplazium sibiricum var. glabrum × D. squamigerum
(メシダ科 ノコギリシダ属)
川俣川渓谷沿いの狭い河原や林床に生育する。ミヤマシダとキヨタキシダの雑種と推定される。葉の大きさは50~90cm(葉柄は30~50㎝)。やや離れて見た外観はミヤマシダによく似るが、ミヤマシダのように群生せず、それぞれの株が点在していたり間隔を空けてまとまって生育したりしている。根茎はミヤマシダのように長く這わず、斜上~直立に近い。根茎の先から2~3本の葉をまとまってつける。葉柄は太く、キヨタキシダの大形種を思わせる。キヨタキシダの裂片は全縁であるがミヤマシダのように大きな羽片の裂片には鈍鋸歯がある。
①渓流沿いの林床に生育するミヤマキヨタキシダ(ミヤマシダ×キヨタキシダ)
②ミヤマキヨタキシダ、葉柄
③ミマキヨタキシダ、葉柄基部の鱗
⑧ミヤマキヨタキシダ、胞子のう群
⑧ミヤマキヨタキシダ、胞子のう群
イワイタチシダ Dryopteris saxifraga
(オシダ科 オシダ属)
渓谷沿いの岩上に生育。10~20㎝の小さなシダ。葉は白青緑色、光沢無し。葉柄~中軸の鱗片は開出。有性生殖種。
①切り立った岩壁に生育するイワイタチシダ
②イワイタチシダ、葉柄の鱗片
ナンタイシダ Dryopteris maximowiczii
(オシダ科 オシダ属)
涼しい渓谷の岩壁に生育する。ミサキカグマに似るが生育環境が異なる。葉の裏面では包膜の先に裂片の鋸歯が見える。
①涼しい渓谷の岩壁に生育するナンタイシダ
②ナンタイシダ、包膜の先に裂片の鋸歯が見える。
ミヤマベニシダ Dryopteris monticola
(オシダ科 オシダ属)
渓谷沿いの岩が露出する痩せた林床に群生する。葉は大きく60~100cm。
①渓谷沿いの岩が露出する痩せた林床に群生するミヤマベニシダ
フジオシダ(オシダ×オクマワラビ)Dryopteris crassirhizoma × D. uniformis
(オシダ科 オシダ属)
オシダとオクマワラビの雑種と推定される。両種が生育する場所では時々観察できる。遠くから見ても周りのシダよりも特別大きい。北杜市長坂大深沢川沿いの林内。付近にはオクマワラビやオシダが生育。胞子を観察すると雑種の特徴が現れていた。胞子のう群を顕微鏡で観察すると、明褐色の不稔の胞子のう群の中にわずかながら栗色をした充実した胞子のうが見つかり、一部充実した胞子を含んでいる。栗色をした胞子のうを壊すと充実した胞子と歪な不稔の胞子が混ざり雑種であることを示している。
①スギ・ヒノキ林斜面林床に生育するフジオシダ
②フジオシダ、葉身
③フジオシダ、胞子のう群
④フジオシダ、わずかにみられるやや充実した胞子のうを壊したようす
イノデの仲間
川俣川の深い渓谷では、4種のイノデが比較的まとまって観察できた。ホソイノデ、ツヤナシイノデ、イワシロイノデ、トヨグチイノデの4種。どのイノデも現地では夏緑性。葉柄には淡褐色の鱗片をつけその中に大きな丸い鱗片が混ざる仲間。色もあまり違わないので一見同じイノデの仲間として見過ごしてしまいそうになるが、鱗片や胞子のう群の付く位置などを観察すると違いが判る。
ホソイノデ Polystichum braunii
(オシダ科 イノデ属)
葉柄は短く淡褐色の鱗片をつけその中に大きな丸い鱗片が混ざる。葉は紡錘形で下部の羽片はよく短縮する。胞子のう群は小羽片の中肋寄りにつく。
①渓谷沿いの岩場に生育するホソイノデ
ツヤナシイノデ Polystichum ovatopaleaceum
(オシダ科 イノデ属)
高尾山でも見られるシダであるが標高の高い渓谷にも見られた。葉柄には淡褐色の鱗片をつけその中に大きな丸い鱗片が混ざる。葉の大きさは50~70㎝。中軸の鱗片は丸っこい。胞子のう群は小羽片の中肋と辺縁の中間につく。
黄緑色の葉を展開する。
①渓谷沿いに低く黄緑色の葉を広げるツヤナシイノデ
②ツヤナシイノデ、中軸の鱗片
イワシロイノデ Polystichum ovatopaleaceum var. coraiense
(オシダ科 イノデ属)
外観や大きさはツヤナシイノデによく似ているがツヤナシイノデよりも青味が強い場合がある。胞子のう群は小羽片の中肋と辺縁の中間につく。異なるところは中軸の鱗片は披針形であるところ。亜高山や緯度の高い地方では普通に見られるが、陣馬山系や奥多摩などではツヤナシイノデと中間的な紛らわしい個体も観察される。
①渓谷沿い林床に生育するイワシロイノデ
②イワシロイノデ、中軸下部の鱗片
トヨグチイノデ Polystichum ohmurae
(オシダ科 イノデ属)
小形のイノデの仲間。葉柄には淡褐色の鱗片をつけその中にねじれた大きな丸い鱗片が混ざる。葉の大きさは30~40㎝、葉身の先端はそれほど尖らない。胞子のう群は小羽片の辺縁寄りにつく。
①渓谷沿いの岩の隙間や薄い腐植が載った岩棚に生育するトヨグチイノデ
②トヨグチイノデ、葉柄基部の鱗片
ナガオノキシノブ Lepisorus rufofuscus
(ウラボシ科 ノキシノブ属)
渓谷沿いの樹冠に覆われた岩壁に着生する。葉はノキシノブよりも細長く20~30㎝。
①渓谷沿いの樹冠に覆われた岩壁に着生するナガオノキシノブ
ミヤマノキシノブ Lepisorus ussuriensis var. distans
(ウラボシ科 ノキシノブ属)
渓谷沿いの岩上に生育。時に大群落を形成する。葉柄が明瞭。
①渓谷沿いの苔むした岩上に生育するミヤマノキシノブ
②ミヤマノキシノブ、葉柄
ミヤマウラボシ Selliguea veitchii
(ウラボシ科 ミツデウラボシ属)
ミヤマウラボシは花崗岩類の岩壁で見かけることが多い。川俣渓谷では一部の岩壁で見られた。
①岩壁に生育するミヤマウラボシ
②岩壁に生育するミヤマウラボシ
③ミヤマウラボシ、胞子のう群
イワオモダカ Pyrrosia hastata
(ウラボシ科 ヒトツバ属)
石灰岩地帯や石灰岩を含むと考えられる堆積岩の岩壁に見られるが、八ヶ岳七里岩周辺(玄武岩質あるいは安山岩質)の一部の岩壁では多く生育する。
オシャグジデンダ Polypodium fauriei
(ウラボシ科 エゾデンダ属)
高尾山などでは樹幹に着生することが多いが、八ヶ岳では季節によって寒さや乾燥が厳しいためか沢近くの樹林内の岩上に生育していることがある。
①渓流のそばの苔むした岩上に生育するオシャグジデンダ
②オシャグジデンダ、葉の裏側の胞子のう群および毛