5月の初めの頃、金華山の照葉樹の緑の山肌はところどころ淡いクリーム色の模様がパッチワークのように入っていました。同行の方から”ツブラジイの花”と言われ、なるほどと思いました。チャセンシダの仲間やベニシダの仲間は難しく、みなさんでいろいろご意見を出しながら観察を行いました。今回もカメラの設定を間違えたまま撮影し、小さな写真です。
ナヨシダの仲間
ウスヒメワラビ Acystopteris japonica
ナヨシダ科 ウスヒメワラビ属
林内のウエットなチャートの谷筋に生育。
(1)林内のウエットなチャートの谷筋に生育するウスヒメワラビ
(2)ウスヒメワラビ、葉柄の鱗片
チャセンシダの仲間 [#j3148996]
いろいろなチャセンシダの仲間を観察することができた。ヌリトラノオ、シモツケヌリトラノオ、シモダヌリトラノオ（ヌリトラノオ×シモツケヌリトラノオ）、トキワトラノオ、コバノヒノキシダ、アイトキワトラノオ、イノウエトラノオなどが見られた。
ヌリトラノオ Asplenium normale
チャセンシダ科 チャセンシダ属
金華山では岩場では普通にみられます。乾燥した岩場にも見られますが普通ウエットな環境を好み、浅い表土の林床～岩上・木の幹に生育しています。無性芽で増えやすいためか群生していることが多いです。羽片は先がやや細くなる四角形ですが形や色に変化があります。一般に無性芽をつけた株の画像がたくさん紹介されていますが、現地（金華山）では無性芽をつけていない株のほうがずっと多いです。
まだ、多くの個体の胞子のようすを調べていませんが、個体の変異が大きいことを含め、有性生殖種と無融合生殖種が存在するかもしれません。
(1)(2)ヌリトラノオ
(1)(2)ヌリトラノオ
(1)(2)ヌリトラノオ、無性芽
胞子を採取したヌリトラノオ
(1)(2)胞子を採取したヌリトラノオ、羽片
(1)ヌリトラノオ、胞子上面
(2)ヌリトラノオ、胞子側面
(1)ヌリトラノオ、胞子上面
(2)ヌリトラノオ、胞子側面
シモツケヌリトラノオ Asplenium boreale
チャセンシダ科 チャセンシダ属
乾燥気味の岩場に生育。一般に無性芽をつけません。無性芽で増えないためかヌリトラノオのように群生していません（ヌリトラノオも点在して生育することはあるが）。羽片は先が円頭の四角形。ヌリトラノオも同様な羽片をつけることがあり、似ている個体も見られ、現地では首をかしげる個体も多くありました。付近に生えるヌリトラノオも無性芽をつけない個体が多いので区別に注意する必要があります。ただ、胞子の形状はヌリトラノオとは明確に異なりました。
(1)(2)シモツケヌリトラノオ
(1)(2)シモツケヌリトラノオ
(1)胞子を採取したシモツケヌリトラノオ
(2)胞子を採取したシモツケヌリトラノオ、葉身下部
(1)(2)胞子を採取したシモツケヌリトラノオ、羽片
(1)(2)胞子を採取したシモツケヌリトラノオ、羽片拡大
胞子を採取したシモツケヌリトラノオ、羽片裏側
(1)(2)胞子を採取したシモツケヌリトラノオ、胞子嚢群
(1)(2)シモツケヌリトラノオ、１つの胞子嚢を壊したようす
(1)(2)シモツケヌリトラノオ、胞子
(1)シモツケヌリトラノオ、胞子上面
(2)シモツケヌリトラノオ、胞子上面および側面
(1)シモツケヌリトラノオ、胞子上面
(2)シモツケヌリトラノオ、胞子側面
(1)シモツケヌリトラノオ、胞子上面
(2)シモツケヌリトラノオ、胞子側面
シモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）Asplenium boreale × A. normale
チャセンシダ科 チャセンシダ属
大きい葉では40㎝に達します。外観は大形のヌリトラノオに見えます。ほとんど無性芽は着けませんが、少数の無性芽をつける個体も見られました。胞子は大きさや形が乱れ雑種の特徴を示します。ヌリトラノオとシモツケヌリトラノオの雑種と推定されます。
シモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）
(1)(2)胞子を採取したシモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）
(1)胞子を採取したシモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ)、葉身
(2)胞子を採取したシモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）、葉身下部
(1)(2)胞子を採取したシモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）、羽片
(1)(2)胞子を採取したシモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）、胞子嚢群
(1)(2) シモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）、１つの胞子嚢を壊したようす
(1)(2)シモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）、胞子のようす
(1)(2)シモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）、胞子のようす
(1)(2)シモダヌリトラノオ（シモツケヌリトラノオ×ヌリトラノオ）、胞子のようす
コバノヒノキシダ Asplenium anogrammoidesイノウエトラノオ Asplenium varians
チャセンシダ科 チャセンシダ属
※最初イノウエトラノオとしました。その後アシカワトラノオ(仮称)に訂正しましたが、採取栽培後の形態からアシカワトラノオ(仮称)ではなくコバノヒノキシダであることがわかり訂正しました。
金華山の山際の民家の石垣に生育。7株程度確認。コバノヒノキシダやトキワトラノオが同じ石垣に生育。2回羽状複生～3回羽状深裂。切れ込みの浅い羽片の個体は、外観はちょっと見たところオウレンシダに似る(同行の方の感想)とのこと。胞子嚢群は線形～三日月形。まだ胞子は調べていません。
コバノヒノキシダイノウエトラノオ
(1)(2)コバノヒノキシダイノウエトラノオ、葉身
(1)コバノヒノキシダイノウエトラノオ、葉身下部の羽片
(2)コバノヒノキシダイノウエトラノオ、葉身上部の羽片
(1)(2)コバノヒノキシダイノウエトラノオ、胞子嚢群
メシダの仲間
イヌワラビ、ヤマイヌワラビ、ホソバイヌワラビ、ヒロハイヌワラビ、サトメシダなどが見られました。
サトメシダ Athyrium deltoidofrons
メシダ科 メシダ属
山から流れ出た明るい小川の周辺ではサトメシダが見られました。
(1)林縁の小川沿いに生育するサトメシダ
(2)サトメシダ、包膜
ヒロハイヌワラビ Athyrium wardii
メシダ科 メシダ属
山の裾野の平坦な森の中ではヒロハイヌワラビが見られました。
(1)ヒロハイヌワラビ
(2)ヒロハイヌワラビ、羽片
(1)ヒロハイヌワラビ、羽軸裏側の毛
(2)ヒロハイヌワラビ、胞子嚢群
タニイヌワラビ Athyrium otophorum
メシダ科 メシダ属
タニイヌワラビの新芽だと思います。新葉は白味を帯びていました。
(1)タニイヌワラビ、展開したばかりの葉
(2)タニイヌワラビ、葉柄基部の鱗片
オシダ属の仲間
金華山の周辺はベニシダの仲間が豊富です。イタチシダの仲間やオクマワラビが少数観察できました。
イワオオイタチシダ Dryopteris subhikonensis
オシダ科 オシダ属
山頂近くの岩場でイタチシダの仲間を1株観察しました。オオイタチシダ（アツバオオイタチシダ）に似ていますが、葉身は小さく・スリムで小羽片の鋸歯はほとんど確認できません。金華山周辺ではイタチシダの仲間はお目にかかることがほとんどありませんでした。
(1)岩壁に生育するイワオオイタチシダ
(2)イワオオイタチシダ、小羽片
ギフベニシダ
金華山 山際の石垣。鋭角的に上向きに羽片をつけスリムなギフベニシダが群生していました。関東でたまに見つかる個体にくらべ葉身はよりシャープな感じがする。
(1)葉身を立ち上げるギフベニシダ
(2)ギフベニシダ、胞子嚢群
ミドリベニシダ Dryopteris erythrosora f. viridisora
オシダ科 オシダ属
照葉樹林内、乾燥気味の岩場では、ベニシダに混ざってミドリベニシダが多く見られました。新葉の時期以外は鱗片の色や形状で区別することができます。
(1)ミドリベニシダ
(2)ミドリベニシダ、胞子嚢群
(1)ミドリベニシダ、葉柄下部の鱗片
キノクニベニシダ Dryopteris kinokuniensis
オシダ科 オシダ属
照葉樹林内乾燥気味の岩場で見られた。ベニシダに似るが羽片は対生、直交してつき直線的で葉面は水平気味。包膜は紅色。
(1)キノクニベニシダ
(2)キノクニベニシダ、胞子嚢群
エンシュウベニシダ(オオマルバベニシダ) Dryopteris medioxima
オシダ科 オシダ属
(1)エンシュウベニシダ
(2)エンシュウベニシダ、葉柄の鱗片
オワセベニシダ Dryopteris ryo-itoana
オシダ科 オシダ属
照葉樹林に覆われた森、表土の薄いあまりウエットではない林床や岩上に生育。
オワセベニシダ
(1)オワセベニシダ、最下羽片
(2)オワセベニシダ、胞子嚢群
オワセベニシダ(最下羽片後側第1小羽片が短縮型) Dryopteris ryo-itoana
オシダ科 オシダ属
照葉樹林の森、表土の薄いあまりウエットではない林床や岩上に生育。付近にはオワセベニシダが生育しているところもあった。
※最下羽片後側第1小羽片が短縮するオワセベニシダに訂正いたします。ムラサキベニシダ(緑色type)に訂正します。このシダについては、いままでムラサキベニシダ(緑色type)、ヌカイタチシダモドキあるいは最下羽片後側第1小羽片が短縮するオワセベニシダなどの名称をつけたことがあります。最近ムラサキベニシダをよく知る方からご意見を頂き、ムラサキベニシダは全体に華奢であること・葉の質がこのシダよりも薄く光沢があることなどから訂正いたします。2019年7月31日
(1)最下羽片後側第1小羽片が短縮するオワセベニシダ
(2)最下羽片後側第1小羽片が短縮するオワセベニシダ、葉柄の鱗片
(1)(2)最下羽片後側第1小羽片が短縮するオワセベニシダ、最下羽片
最下羽片後側第1小羽片が短縮するオワセベニシダ、胞子嚢群
アツギノヌカイタチシダマガイ Dryopteris paomowanensis
オシダ科 オシダ属
1つの大きな岩壁に生育。10株程度。羽片・小羽片は中軸・羽軸に対し直交してつく。羽片は上部は鎌曲し、柄はほとんどない。
サイゴクベニシダはよく似ているが、羽片間に”空け感”があり、あまり鎌曲しない。下部の羽片や大きな小羽片には柄がある。
アツギノヌカイタチシダマガイ
アツギノヌカイタチシダマガイ、葉柄の鱗片
(1)(2)アツギノヌカイタチシダマガイ、中軸下部の鱗片
(1)(2)アツギノヌカイタチシダマガイ、中軸下部の鱗片
マルバベニシダ(最下羽片やや短縮・胞子嚢群は中肋寄り～中間type)
オシダ科 オシダ属
今回も特徴的なマルバベニシダ似のシダ?が見られました。
このマルバベニシダ似のシダは、普通のマルバベニシダにくらべ①最下羽片がやや短縮する。②胞子嚢群は中間寄りにつく。③2回羽状複葉ではなく2回羽状全裂。
ヌカイタチシダモドキ Dryopteris indusiata
オシダ科 オシダ属
ヌカイタチシダモドキの中には小羽片の先が丸くヌカイタチシダマガイに間違えてしまいそうな個体も見られるが、葉の色・艶や形、鱗片の色などで区別は容易である。
標本1
典型的なヌカイタチシダマガイ
ヌカイタチシダモドキ
(1)(2)ヌカイタチシダモドキ、葉柄の鱗片
(1)ヌカイタチシダモドキ、最下羽片
(2)ヌカイタチシダモドキ、胞子嚢群
標本2
(1)ヌカイタチシダモドキ、最下羽片
(2)ヌカイタチシダモドキ、胞子嚢群
そのほか
オオシラガゴケ？
木漏れ日がさし、乾燥気味の岩壁に生育。ホソバオキナゴケよりもずっと大きい。
リンボク
成木の葉には刺が無く若木の葉縁には刺状の突起がある。
ヒメカンアオイ
葉の直径は2～3㎝と可愛い。
製作中